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「アテネも行く。アテネも、みんなと一緒に行く」
 きっぱりと、アテネはそう言った。
「この前言ったはずだ。マスター以外は『NONET』には参加させない」
「でも、お兄ちゃんやみんなが危ないことするのに、アテネは待ってるだけな
んてイヤだよ! アテネも連れて行って。ね、お兄ちゃん!」
「あのな、アテネ」
 シエルがアテネの手をつかんで、自分の方に向かせる。
「危ないんだ。昨日の翔の話、聞いてただろ?」
「聞いてたよ! お兄ちゃんが危ないことするの、アテネはやだよ!!」
「でも、これがオレの『仕事』だって話はしたよな? 信也に駄々こねたんだっ
て? オレの話じゃ説得力足りなかったか?」
 アテネは泣きそうな目で首を左右に振った。
「お兄ちゃん、アテネが離れて行きたくなるまで一緒にいさせてくれるって言っ
た! お兄ちゃんが危ないところに行くんなら、アテネも行く。アテネ、お兄
ちゃんと一緒にいる!」
 そのまま、ぎゅっとシエルの片腕にすがる。
 シエルは困ったような顔で。
「危ないとろこになんか、兄ちゃんはアテネをつれていけないよ」
「あきらめなさい。この前信也に断られたんでしょ?」
「好きこのんで行く場所じゃないぞ」
 みんなが引きはがそうとするのだが、アテネはひしっとつかまったままだ。
「アテネ。本当に危ないんだ。マスターでさえ危ないのに、能力を持たないお
前が来たら余計に危ないだろ?」
「それでもいい! ひとりで待ってるのなんかやだっ!」
 アテネはいやいやをして、ますますシエルにしがみついた。
「みんなわかんないんだよ。一人ぼっちで帰ってこないかもしれない人を待っ
てる時の怖さ、わかんないんだよ!」
「……」
 水をうったかのように、周囲がシンと静まりかえる。
「アテネ、1人になるの絶対やだ。やっと1人じゃなくなったと思ったのに、
また1人になるのはやだ。嫌だからね!!」
 そういうと、アテネはシエルの胸に顔を埋めて泣き出してしまった。
「こら、アテネ。泣くなって」
「やだやだやだ! お兄ちゃん、お兄ちゃん!! アテネ、みんな元気でいてく
れなきゃ嫌だよ!!」
「連れて行ってあげようか……」
 リョウが小さく言うが、信也は首を振って。
「ダメだ。連れて行くのは絶対ダメ」
「それじゃ……」
「一人で待ってなければいいんでしょ? ついでにシエルが安全なら」
 考え込むように口元に手を当てて、翔。
「って、何かアイデアでも?」
「さっき、信也が通信起点やるって言ったでしょ? 自分の作業やりながら全
員の動きをモニターするのはタイヘンだから、いっそ第8寮に起点を置こうか
と」
「???」
「シエル、第8寮に残ってくれる? それでアテネと一緒にナビゲートしてよ。
これならアテネも満足だろ?」
「なるほど……ぼくに重労働させようってハラか」
 皮肉っぽく哉人が言う。
「リリィが哉人と一緒に動いてくれるかな? これで全員満足だろ?」
 翔は妥協案を出した。
 これなら確かに、全員の要求が通っている。
「まあ……」
「・・・・」
「これでいいか? アテネ」
 シエルが自分の体から妹を離して、翔の方に向かせる。
「これが最大限の譲歩。もうこれ以上はゆずれないよ」
「みんな、ちゃんと帰ってくる……?」
「帰ってくるって。それは俺が保証するから」
 信也にもそう言われ、アテネは頬に涙をつたわせたままこくりと頷いた。
「じゃ、今度こそこれで決まり。後は夜を待つだけ」
 そこで話は締めくくられた。
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