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 それから半時間後。
 絵麻、リリィ、アテネの3人はPC本部前まで来ていた。
 アテネはさっきまで着ていた唯美の服の包みと、他にも買った下着や部屋着
の包みとを持っている。
「もうすぐシエルたち帰ってくるんじゃないかな」
 街頭はPCでの勤務が終わって家路につく人で、次第に混雑しはじめている。
 そんな中でも、アテネは目ざとく兄の姿をみつけだした。
「お兄ちゃん。お兄ちゃん!」
 子ウサギのような勢いで、文字通りぴょんぴょん跳ねるようにしてPCから
歩いて来た一組の男女グループのところに行く。
 いちばん先に気づいたのは、グループの中でいちばん背の高い、アテネと同
じプラチナブロンドの髪をした少年だった。
「アテネ!」
 アテネの兄、シエル=アルパインである。
 妹よりはくせのないプラチナの髪と、同じ青の瞳。深緑色のフリース地のパ
ーカーを着ているが、右側には腕が通っていない。
 その片方しかない腕を広げて、シエルはとんできた妹を抱きとめた。
「買い物できたのか?」
「うん! 見て見て。アテネの新しい服だよ」
 アテネはその場でくるりと一回転してみせる。
「可愛いじゃん。絵麻とリリィに選んでもらったのか?」
「アテネが着てみたいって言ったの。靴も一緒に買ったんだよ」
 服地とよく似た色合いの、先が丸くなった可愛らしい靴をシエルにみせた。
「全部アテネのなんだよ。誰かのおさがりとか、もらいものとかじゃなくって!
 全然きつくないし、アテネの好きな色なんだよ」
「似合う似合う。可愛い可愛い♪」
 シエルが目を細めて、ぎゅっと腕の中に妹を抱き寄せる。
「きゃーっっ♪」
 紙包ごと抱き寄せられたアテネが歓声をあげた。
「……」
 路上でのあからさまなスキンシップに、絵麻はあっけにとられてしまう。
「……シスコン」
 ぼそっと呟いたのが、シエルと連れ立って歩いていた少年のほうで。
 鳶色の長髪を後ろでひとつに束ね、コーラルシーのバンダナをかぶせている。
鳶色の前髪の下からのぞく目は宝石のごとき、鮮やかな蒼。
 いつもはタンクトップにハーフパンツなのだが、ここのところの寒さとPC
職員としての体裁から薄手のフードパーカーをはおっていた。
「……ブラコンでしょう」
 つっこみ返すのがもう1人の、野球帽をかぶった少女。
 帽子と同じ、ダークローズのセパレートを着ていて、帽子の下からのぞく髪
はぬばたまの夜の色。気の強そうな瞳も、やはり黒曜石の漆黒。
 前者は琴南哉人(ちかと)。後者は隼唯美。どちらも『NONET』のメンバーだ。
「っていうか、両方だと思う」
 絵麻が言う横で、リリィが苦笑いしていた。

「あら。似合うじゃない」
 第8寮に戻って来たアテネを見て、リョウ=ブライスが言った。
 チョコレートブラウンのショートボブに、明るい紫の瞳。すらっと背の高い
少女で、表情全体に活気が宿っている。
 服装は肩のあいた長袖Tシャツに革のベストと、パンクな印象だ。耳元の赤
いピアスと左手首の乳白色の石のついたチェーンのブレスレットというアクセ
サリーがそう見せているのかもしれない。
「リョウさん」
 アテネはにこにこ顔でリョウに近づく。
 アテネが薬物を飲まされて自我喪失状態に陥ったとき、手当してくれたのが
リョウである。これでいて彼女は医者の免状を持っている。
 その縁で、アテネはすっかりリョウになついていた。
「見て見て。アテネだけの服なんだよ。誰かのおさがりとかじゃなくって」
「よかったね」
 髪を撫ぜてもらって、アテネがきゃーっと笑う。
「でも、髪の毛が寂しいかなー。せっかく長いのに」
「?」
 アテネはくせっ毛の髪をつまみあげた。
 絵麻と同じくらいの長さだ。くるくるしたくせがなくなれば、絵麻より長い
かもしれない。
「絵麻はピンでとめてるし、リリィはリボンつかってるし。唯美には帽子があ
るし……なんかあったほうがいいわよね」
 リョウは考え込むようにすると、やがてこう言った。
「あたしの部屋にくる? 何かあると思うから、選んであげる」
「本当? わーい♪」
 アテネが歓声をあげて右手で絵麻を、左手でリリィをつかまえた。
「絵麻ちゃん、リリィさん、唯美ちゃん。みんなも行こう?」
 出せなかった3本目の手のかわりに、口で唯美を誘う。
 さっき、アテネはリョウになついていると言ったが、それは事実の一部。
 実際はNONET全員になついているのである。
「アタシも?」
 何か別の用があったらしい唯美が、眉を寄せるが。
「唯美ちゃん、行けない?」
 アテネにうるうる目で言われてしまい。
「あのねぇ、泣けばすむってもんじゃないのよ。泣けばすむって……」
「……ダメ?」
「あ! コラ唯美、アテネ泣かすなよ!!」
 アテネの声の調子が変わったのを聞いて、シエルがとんでくる。
「アテネはお前と違って繊細なんだからな!」
「アンタ、一体妹をどういう育て方したのよっ!! 泣けばすむって問題じゃな
いでしょうが?!」
 寄ると触るとケンカになる2人。哉人はこの事態の予測でもしていたのか、
とっくに自分の部屋に退散している。
「ケンカしないで……」
 涙声のアテネに言われ、2人ははっとしてケンカを止めた。
「じゃ、行きますか」
 リョウが苦笑いで階段の方に歩みをすすめる。
「あ、待ってリョウさん」
 アテネがすっとんでいき。
「絵麻ちゃんもリリィさんも唯美ちゃんも早く行こうよー」
 と、声をかけてきた。
「わたし、夕飯の準備があるんだけど……」
 絵麻は思わず呟いたのだが。
「・・・・・・・・・・・・・・・?」
 リリィのいたずらっぽい笑みに、全てを察して頷いた。
「わかってる」
 そうして、女の子5人は連れ立って2階へとあがって行った。
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