【転章】
「フフ」
闇の中に、パンドラがうずくまっている。
まだ体はところどころノイズのように掠れていたが、唇には妖艶な笑みが戻っ
ていた。
唯一輪郭のはっきりした指先に、絵麻の体からえぐり出した血星石が血の光
沢を放っている。
「あの女の血……」
パンドラは血星石に、自らの血のように赤い舌を這わせた。
「今度こそ、確実に殺してあげましょう」
唇から、ぞっとするように残忍な呟きがもれる。
「憎むべき存在。倒すべき存在。殺すべき存在。なんで100年前に殺ってお
かなかったのかしら?!」
パンドラは口の中から、さっき飲んだ血を吐き出した。
「殺してあげる!! もう2度と邪魔できないように。アンタの全てをぐしゃぐ
しゃに壊してあげる!! 全て否定して滅ぼしてあげる!! アハハハ……!!」
パンドラの高笑いが闇にこだまする。
全てを憎むような、全てを壊すような。そんな破壊魔の声だ。
その不気味な声は闇に飲みこまれ、外界には響かない。
だから、この言葉を聞いたのはパンドラ本人だけだった。
「『平和姫』……今度こそ殺してあげましょう。『不和姫』としてね」