5.邂逅−平和姫と不和姫− ────ざくん。 鈍い、とても不快な音が辺りに響く。 同時に、絵麻の腹部を今までにない程の激痛が襲った。 「!!」 痛いなんて形容詞じゃたとえきれない。 焼いた鉄のかたまりを押しあてられ続けているみたいな。 痛みで気が遠くなっていくのに、その痛みが逆に意識を鮮烈に覚醒させる。 「絵麻!」 「あ、ああ……痛ぁっ……!!」 目を開けると、パンドラが残酷に笑っている。 「ハハ、痛い? そうでしょう。切腹とおんなじことしてるんだもの!」 パンドラが赤い唇をつりあげて高笑いした。 「絵麻! しっかりして!!」 翔が叫んだ声が聞こえたが、絵麻はもう答えることができなかった。 「心配しなくても大丈夫よ。そうそう楽には死なせないから」 パンドラの冷ややかな声がした、次の瞬間。 「えっ!?」 傷口をえぐるように、『何か』が絵麻の腹部に入ってきた。 刹那、さっきよりもずっとずっとつらい痛みが、絵麻の全身に走る。 「痛っ……痛いよ! 止めてぇ!!」 パンドラが傷口に手をさしこみ、絵麻の体の中を乱雑にあさったのだ。 絵麻が泣き叫んでも、パンドラは冷酷な微笑を張り付かせたまま、体内を屠 り続ける。 「やっぱり、ここにあったのね」 やがて、その手が探していた物に到達する。同時に、パンドラが絵麻の血塊 にまみれた手を引き抜いた。 白から毒々しい朱に染まった指先には、濃緑の石が握られている。 「アハハ。やっとみつけた。ブラッドストーン!!」 朱に染まった手で、血にまみれた石を宝物のように握りしめ、パンドラは恍 惚にひたった。 「これで復活に近づく! これで私は世界を滅ぼす!!」 パンドラが立ち上がり、楽しげに視線を左右にふる。 「……」 絵麻はそれを見るともなしに見ていたのだが、かくっと首が下に落ちる。 すると、制服の腹部に、赤くべたべたしたものが一面についているのが見え た。 (これ……わたしの血?) 認識したとたん、意識がぐらっと遠くなる。 (死ぬの……?) 朦朧となりながら、絵麻はポケットに入れたままの手で、祖母の形見の石を 握りしめた。