「翔は下で調べ物するの?」 「うん。パソコンはリビングにある奴の方が性能がいいからね」 階段を降りきったところで別れ、絵麻はリビングと反対側にある病室へと向 かう。 病室のドアは半開きになっていた。 ベッド横の椅子にシエルが座っていて、何かを話しているようだった。 「入るよ」 コツコツとドアをノックしてから、部屋に入る。 「絵麻」 「絵麻ちゃん」 寝ていたアテネがぴょこんと、上半身を起こした。 自白剤の効果はほとんどなくなり、瞳にいきいきとした輝きが戻っている。 額や喉元にあった痣はリョウがヒールで治してくれたおかげでほとんど薄くな り、着ているものがパジャマでなければ元気な状態とほとんど変わらないだろ う。 実際、彼女は第8寮のメンバーにすっかり慣れて懐いていた。 「もう起きていいの?」 「3日くらい様子をみて、薬の副作用がでなければ外に出てもいいんだって。 早く外に出られないかな」 「そんなに急ぐなよ。時間はいっぱいあるんだから」 「ホント?」 アテネがにこにこと兄を見る。 「お兄ちゃんがね、いっぱい遊びに連れて行ってくれるって。PCの本部や商 店街とか、たくさんみせてくれるんだって」 「よかったね」 この子が笑っていると、見ているほうも何となく暖かい気持ちになる。 「シエルも……よかったね」 「サンキュ」 シエルが照れたように笑った。 笑い顔は、妹とよく似ていて。 「みんな、助けてくれたからさ。オレだけだったら全然わかんなくてダメになっ てたと思う。実際、オレって何の役にもたってないし」 「そんなことないよ」 絵麻はポケットを探ると、アテネの布団の上に木片を2つおいた。 「? 何これ」 「見覚えない?」 1つを手にとって眺めていたアテネが、あっと声をあげる。 「あーっ! これ、アテネのプレートだ!」 「え?!」 「割れちゃってるけど、ほら。こことここ合わせたら」 アテネが割れ目を合わせてみせる。 「ホントだ……前にオレが作った奴じゃん」 「なんで割れちゃったの? アテネ、ちゃんと持ってたのに」 「アテネちゃん、剣を突き立てられたの覚えてる?」 「うん……」 「え?! そんなことされてたワケ?!」 絵麻は自分が知っている限りをシエルに説明した。胸から剣が抜け、そのあ とで半分に割れたプレートが転がったことを。 「ああ……だから貴族はアテネを殺した気になってたんだ」 「でも殺せなかった。わかったでしょ? 肝心なところでアテネを守ったのは、 シエルだったんだよ」 「……」 絵麻はサイドボードの食器をまとめると、兄妹水入らずを邪魔しないように 静かに出て行った。