6.世界でいちばん大事な人へ 「翔たち、大丈夫かな。無事に合流できたかな」 アテネをベッドに寝かせ、衣服を緩める手伝いをしながら絵麻が何度目かの 呟きをもらした。 「大丈夫だって」 「あれから騒ぎは聞こえないだろ?」 「うん……」 さっきからこの繰り返しである。 信也の言葉に一時はなだめられてくれるのだが、また5分としないうちに同 じ呟きが唇からもれるのだ。 「病人のそばで気弱にされると助かる病人が助からなくなるから、リリィの方 に行っててくれる?」 見かねたリョウがそう口にした。 「あ……ごめん」 絵麻はアテネの顔をのぞきこんだ。 リョウがひととおり処置を終えていて、今は静かに眠っている。 「アテネちゃん、大丈夫?」 「ひととおり吐かせたし、水も飲ませたし……後は安静にしていれば自然に目 を覚ますんじゃないかな。ヒールもかけといたから」 「うん」 「目が覚める頃には、シエルたちも戻ってくるでしょう」 「アテネちゃん、喜んでくれるよね。 それにしても……翔たち、大丈夫かな。無事に戻ってくるかな」 「またそれなの?」 リョウが苦笑いした時だった。 慌ただしくドアが開いて、唯美が部屋の中に飛び込んで来た。 「唯美?!」 「封隼は?! 封隼、ここに来てるんでしょ?!」 偶然目があった絵麻に、唯美が勢い込んでまくしたてる。 「あ……そっちにいるけど……」 絵麻が指した先には、封隼が壁に寄りかかるようにして座り込んでいた。 「封隼!!」 横にいたリリィを突き飛ばしそうな勢いで、唯美が駆け寄る。 「唯……姉?」 姉を仰いだ顔が、いつの間にか青ざめている。 「バカ! 大バカ!! アンタ、自分に瞬間移動が向かないことくらい知ってる でしょ?! なんでこんな無茶苦茶やったのよ?!」 「おれがやらないと……移動するの無理みたいだったから」 「またベッドで寝たきり生活送りたいワケ?!」 唯美が封隼のシャツの襟をつかんでがくがくゆさぶるのを、慌ててリリィが 止めている。 「さっきも言ってたけど、瞬間移動に向かないって何?」 と、後から部屋に入ってきた翔が聞いた。 「翔」 ほっと息をつく絵麻に、翔は安心させるように笑ってみせた。 「大丈夫。シエルと哉人も一緒」 「本当?」 「ほら、早く入っておいでよ」