「ダメだ。やられてる」
宝石部屋を調べに行っていた哉人が、戻ってくるなり手をあげた。
「血星石の金庫はもちろん、他にあったってパワーストーンもごっそり」
あの女が騒ぎのうちに根こそぎ持って行ったんだろうなと、哉人がこぼす。
「完全にやられたわね」
「そーだな」
そんな中で、翔だけは別のことを考えていた。
「平和姫……」
メガイラが残した言葉を反復する。
平和姫。
何度も何度も、武装集団が繰り返し口にする言葉。
おとぎばなしの、平和の守り手の名前……。
「翔」
呼ばれて、翔ははっと我に返った。
「あ……ごめん。何?」
「これからどうする? 生き証人はこのザマだし」
哉人が床に転がった2つの遺体をさす。
「とりあえずこの件はユーリに隠蔽を依頼して、僕らは戻ろう。アテネのこと
もあるし、封隼もかなり疲れてるみたいだったし」
「封隼が来てるの?」
唯美が意外そうな顔をする。
「あの子、やっと歩けるようになったばっかでしょ? 何で連れて来たのよ?」
「移動手段がなくて困ってたところをテレポートしてもらったんだ」
「何ですって?!」
唯美が素っ頓狂な大声をあげたので、横にいた哉人が思わず耳をふさいだ。
「え? 何をそんなに驚いて……」
「あの子はアタシと違って、瞬間移動の能力を強く持ってないのよ?! 病み上
がりの子に何をムチャさせるのさ!!」
「ええっ?!」
「とにかく行くわよ! アンタら、どこにいたの?」
「あ、それならこっち……」
「行くよ! ほら、ぐずぐずしてないで!」
唯美がシエルの腕を引っ張る。
「え……」
「アンタだって早く妹に会いたいんでしょ?!」
「ああ……」
そう答えるシエルだが、目が不安そうに揺れている。
「大丈夫よ。信じてれば絶対、大丈夫」
唯美は言い聞かせるように言うと、翔を急き立てた。
「さ、早く早く! どの部屋にいるの?」