その封隼はと言えば、部屋の隅に片膝をついている。 僅かではあったが、つらそうに顔をゆがめていた。 「封隼?!」 横ではリリィが心配そうに何事かを問いかけている。 「大丈夫……疲れただけ」 「・・・・・? ・・・・・・・・・・?」 「おれも信用ないな……大丈夫だよ」 「何? 封隼も具合悪いの?!」 リョウがアテネの治療をしながら、顔だけ封隼の方に向ける。 封隼は大丈夫だと、手を振って。 「久々に能力使って疲れただけ。それより、その子……」 「ああ……大丈夫よ。アテネちゃん、これを飲んで」 リョウは顔を上向かせると、アテネの口に水を注ぎ込んだ。 けれど、アテネはすぐにつらそうに吐き出してしまう。 「それでいい……次は飲み込んでね。ちょっと苦いけど」 リョウは信也に焦がしてもらったパンを受け取ると、手の中で細かくつぶし てうまくあやしながらアテネに飲ませた。 「封隼は悪いけど、リリィがみてあげててくれる? ヘンな素振りみせたらす ぐに手を叩いて教えて」 リョウはアテネを診るので精一杯。横で信也が介添えしている。 リリィは頷くと、封隼の肩にそっと触れて、壁にもたれるようにして座らせ た。 「じゃ、僕はシエルたちを探してくる」 「待って。わたしも行く……」 「絵麻はここにいて。ここならみんないるし、とりあえずは安全みたいだから」 翔が絵麻をやんわりと止めた時だった。 激しい風音がして、屋敷が揺れた。 「!」 絵麻はとっさに翔のジャケットをつかんだ。 「翔。今のは……」 「信也も感じた?」 翔はポケットから懐中時計のような装置を取り出した。 「パワーストーンの波動……この色はシエルだね。哉人と唯美も近くにいるみ たいだ」 装置をポケットにおさめて、翔が言った。 「シエル達、無事なの?」 「だろうね……暴れてるもん。僕があの3人回収してくるよ」 「俺も行くか?」 「信也は残っていて。封隼も具合が悪いみたいだし、僕らのどっちかが残らな いとここが危なくなる」 「だったら、俺が行ってお前が残ってもいいだろう。今の暴れ方から行って、 相当むちゃくちゃやってるぞ」 「それでもいいけど……信也、どこに行けばいいかわかってる?」 「うっ……」 「この手の建築形式なら僕はだいたいの道筋がわかるけど、信也は一度行った ら戻ってこれないでしょ?」 さくりと弱点をさしてきた翔に、信也はギブアップせざるをえなかった。 「わかった。まかせる」 「了解」 翔が外の廊下に通じる方の廊下から出て行こうとする。 「翔」 絵麻はその背中に呼びかけた。 「3人連れて、無事に帰って来てね」 「まかせといて」 翔は振り返って、軽い微笑をみせた。