「それじゃ、何? シエルは本当は妹のこと大事に思ってるってこと?」 本日の夕飯、赤ピーマンとタマネギのパスタを刺したフォークを持ちながら、 唯美が一言。 「うん」 給仕をしていた絵麻が頷く。 「お金も、自分の義手じゃなくてアテネちゃんのために貯金してたんだって」 「それだけ思ってる妹に、何であんな冷たい仕打ちするんだよ?!」 これは哉人の弁。声が半分以上怒っている。 「それがね、アテネちゃんの部屋や服をみて、自分には絶対与えられないもの を与えてもらって幸せに暮らしてるって思いこんだんだって」 「……これだから単純バカは」 唯美がため息と共にフォークを置き、哉人がそれに同意して頷く。 かぶっている帽子とバンダナが一緒に揺れた。 (この2人、似てるよね……) 「まだあるけど、食べる?」 「もちろん♪」 「哉人は?」 「ぼくも。半分くらいでいい」 「はーい」 絵麻はフライパンでソースをからめたフジッリをそれぞれの皿に盛ると、テ ーブルに持って行った。 「で、その単純バカさん今どうしてるの?」 「自分の部屋にいるみたい。夕食いらないって」 「それじゃ、結局ぼくたちはあの時、アテネを連れて帰ればよかったのか?」 『行かないで』と絶叫したアテネ。 屋敷にいても楽しいことがないのは目に見えてわかることだった。 「でも……でもね。シエルとも話したんだけど、アテネちゃん『行けない』っ て言ってなかった?」 「ああ……そういえば」 「? どうしていけないのよ?」 「シエルは『自分に会いたくないんだ』って言ってたけど」 「あっきれた。それで自分の部屋で布団かぶってんの?!」 唯美が席をけたてて立ち上がる。 「絵麻。シエルのぶんのパスタよそってくれる?」 「いいけど……どうするの?」 「今から行って、あいつの口にねじ込んでくる」 漆黒の瞳には爛々とした光が宿っていて。 どうみても本気である。 「……唯美、怖い」 「だって、アイツこのアタシに『姉弟だったら信じてろ』って説教したのよ?! その張本人にふぬけられるとアタシが困るの。有言実行って言葉が辞書にない のかあの単純バカは!」 「きっと辞書に太字で『単純』って書いてあんだぜ」 最後の一口を頬張って、哉人がまぜかえす。 「とりあえずパスタよそったけど……こぼさないでね? はい、これがフォー ク」 「サンキュ」 唯美は受け取ると、ふっと姿を消した。 ほとんど同時にシエルが絶叫する声が2階から響いて来たから、瞬間移動が 成功したのだろう。 「翔とかは今日どうしてるの?」 「調べたいことがあるから遅くなるって」 ちょうどその時、ドアが開く音がした。 「あ、帰って来たかな?」 絵麻はぱたぱたと玄関ホールへかけていく。 はたして、玄関ホールには目的の人物が分厚い書類を抱えて立っていた。 後ろには信也の姿もある。 「2人とも、お帰りなさい」 「ただいま」 「すごい資料。どうしたの?」 「今日1日潰して調べ物してたんだ。昨日の話がどうにも納得できなかったか ら」 「?」 「シエルはいる? ちゃんと話せば筋道が通った話ができると思うんだけど」