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2.囚われの少女

  絵麻はこれまで一度も、翔やリリィと離れて『NONET』に参加したこと
がなかった。
  行った先で別れることはあったが、必ず翔かリリィの側にいて、離れないよ
うにと言われていた。
  絵麻には攻撃手段がない。
  絵麻のパワーストーン、ラピスラズリは不思議な石で、他のみんなのように
雷や氷を使えるようになるというものではない。
  同調すると淡い虹色に発光する。その光は盾になることもあるし、場合によっ
てはリョウのような癒しの効果を上げたりする。
  でも、それは成功した時の話であって、練習するとだいたい失敗し、炸裂音
を第8寮に響かせている。
  余談だが近所には『翔の実験が失敗した』と言い訳しているのだが……その
くらい絵麻は『使えない』能力者なのだ。
  加えて、絵麻は哉人やシエルのことを詳しく知らない。
  哉人はいちばん現代にいそうな性格の持ち主だ。冷め切っているようで急に
熱くなるし、キレると怖い。タンクトップにハーフパンツというスケーター
ファッション(パイレーツファッション?)も現代によくいる男の子と同じ。
 姉のファンにも、こういう子が何人もいた。
  そして、誰も追及しないけれど、あの蒼い瞳。
  中央人である哉人の目は茶色になるはずだ。けれど、彼はどういうわけか、
王族のような純血の貴族でもめったに出てこないような美しい、角度で色を変
える蒼い目をしている。
  翔や信也のようにはあまり構ってくれない。いつも黙々と自分の作業をする
か、シエルを相手にチェスゲームをやっているかのどれかだ。
  シエルの方は哉人よりは友好的で、絵麻にも構ってくれるのだが、やはり謎
な部分があった。
  どうしてそんなにお金にこだわるのか。
  『NONET』の報酬は、命懸けの仕事なだけあってかなりわりがいい。絵
麻は自分はあまり役に立っていないという思いから翔に頼んで自分の必要なも
のを買うお金だけわけてもらって、残高は寮の運営費用に回してもらっている。
  それでもここ数回参加するだけで自分の身の回りのもの(着替えやハブラシ
といった生活必要品)は全て買えてしまったし、おつりを集めてみればごくご
く僅かだが小遣いができた。
  シエルは絵麻が見てきた限りでほとんど全部の『NONET』の仕事に参加
して報酬をもらっているし、絵麻が来る前から『NONET』だったのならか
なりのお金を持っているはずだ。それに、彼には表向きの職業であるメイルキャ
リアーの収入だってある。
  早い話が、今までの収入で義手くらい楽に作れたのではということである。
  稼ぐ傍らで、片っ端から使い込んでいるのだろうか?
  それはないにしても、毎回毎回お金お金と騒ぐ必要性はないように思うのだ。
  だいいち、絵麻は姉妹で育ったので男の子をよく知らないのだ。
(この2人のことは特にわかんないんだよね……)
  とはいっても、仕事は仕事。与えられた以上きちんと果たさなければならな
い。
「絵麻?  いい?  これがリターンボール。血星石に触る時はこの手袋をして
ね。また吸収すると困るから。それと、こっちは通信機の端末。何かで困った
ら連絡するんだよ」
  翔が絵麻の手の上に、荷物を山盛りにする。
「どう使うの?」
「リターンボールは叩きつけるだけ。発動までに中の液体が化学反応起こす時
間がいるけど。手袋は普通に。で、通信機だけど、このスイッチこっちに入れ
てくれればすぐに音声送受信できるようになってる」
  翔はライターくらいの大きさの機械をつまんで示した。
「マイクとかは?」
「全体が受信機で、送信機。これにむかって話してくれればいい」
「うん」
「本当に大丈夫?  僕もリリィもついていかないんだよ?!」
  道具をウェストポーチにいれながら、翔が最後の確認をする。
「大丈夫……だよ。信也が危なくないからって行ってくれたし」
「今間があったけど、平気?」
「どーでもいーけど、早くしろよ」
  玄関ポーチで、シエルが呼んでいる。
  横には哉人の姿があり、正面には唯美と信也がいる。
「あ、はーい」
  絵麻は慌てて返事をすると、翔から道具を入れたウェストポーチをもらって
腰に巻きつけ、玄関ポーチに駆けていった。
「お待たせー」
「待った待った」
  シエルがぱたぱたと左手で顔をあおぐ。
「どっかに過保護が約1名」
「僕のこと?」
  いつの間にか、翔も玄関ポーチに来ている。横にはリリィの姿もある。
  どうやら見送ってくれるらしい。
「いーい?  いくよ」
  唯美は既にクリスタルのスティックを持っている。
「唯美が送ってくれるの?」
「それ以外にどうやって侵入するのよ。はい、さっさと3人かたまって」
  唯美は自分がいなくても対象を瞬間移動させることができる。
「今夜、封隼は大丈夫なの?」
「熱下がってきたみたい。アイツのことだからまた芝居うってるのかもしれな
いけどさ」
  そういう声に、張り詰めた様子はどこにもなくて。
  瞳もずっとやわらいだ光を宿している。
  光源は星ちりばめた藍色の夜空にひときわ大きく輝く『青い球体(ブルースフィア)』。もっと
も、今宵はきれいな半分の月(ハーフムーン)。
「それじゃ行くよ」
「まあ大丈夫だと思うけど、くれぐれもケンカすんなよ」
  信也が最後にと、シエルと哉人にクギをさす。
「絵麻のこと、ちゃんと守ってね」
「・・、・・・・・・」
  リリィに頷き返した瞬間、おなじみになった激しい光が絵麻の視界を遮った。
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