シャツの第1ボタンをかけて、信也はMrの執務室の扉を叩いた。 「どうぞ」 穏やかな声が聞こえる。 「失礼します」 言ってから、信也は扉を開けた。 品のいいスラックスとベスト。長い銀髪を後ろで束ねたPC総帥付きの秘書、 ユーリ=アルビレオがそこにいた。 「信也くん」 「ユーリだけ? Mrは?」 「Mrなら東部の視察にお出かけです。東部で大規模な戦闘があったことは聞 いているでしょう?」 「どうなったの?」 「幸い、相手は第8、第9階級の一般武装兵でしたからね。貴方がた『NON ET』に出撃を要請しなくても正規自衛団だけで撃破できたんです。 それより、何の用事で来たんですか?」 「あの子……瀬名のこと」 「絵麻、ですか? 少々苦しいですよ」 「『NONET』には向いてないと思うんだ」 信也の発言は単刀直入だった。 「それは、どういう根拠で?」 「弱いし泣くし、どれだけ言ってもどこかに飛び出していって危なっかしい」 「……で?」 「けど、料理上手いし、面倒見もすごくいいから……裏方に回って欲しいと思 う。 前から寮監が欲しいって言ってただろ? あの子ならぴったりだし」 「そうですね」 ユーリは書類を整理しながら言った。 「では、そのように手配しましょうか」 「手続き、お願いします」 「翔くんが喜びますね」 整理を終えた書類を脇に避けながら、ユーリは小さく笑った。