「教会じゃないの?」 「どこの教会もだいたいこんな感じよ? 神の教えに都合のいい時だけすがり つく奴らが子供置いていくの。ま、ここなんかはPCの併設施設だからまだ待 遇いいけどね」 「これで?」 絵麻の目は子供たちのぼろぼろの衣服やケガに吸い寄せられている。 カノンは肩をすくめると。 「着せて食べさせてもらえるんだからいいのよ。親なし子がたどる道筋って大 抵もっと酷いからね。遊郭に売り飛ばされるとか」 「……」 「知っておいた方がいいわよ。いくらお嬢様とはいえ」 知ってたんだけどな……と絵麻は心の中でだけ言い訳した。 絵麻の両親は海外支援団体で働いている。その関係で、絵麻は16歳という年 齢のわりに発展途上国などの情勢に詳しかったのだ。 祖母の舞由もボランティアに力を惜しまなかったし。 けれど、その経験もこの現状を前にしては過去形である。 「わたしって、何も知らなかったんだな」 ぽつんと呟いた絵麻に、カノンは苦笑いした。 「そんなに悲観しないの。これから知っていけばいいんだから」 わかった、という絵麻の声に、女の子の歓声が重なった。 「わあっ! リリィお姉ちゃん、ありがとう!!」 横でリリィにスカートを縫ってもらっていたフォルテだ。 フォルテの破れたスカートは見事な手際で縫ってあった。 普通は破れ目を隠すように縫うのだろうが、リリィは逆に大胆な縫い目を使 うことでそこを強調し、かわいらしく見せていた。 「リリィ、すごい……」 「知らないの? リリィってすっごい手芸上手なんだよ」 カノンをはさんで反対側に座りながら、リリィが照れたように笑う。 「え?」 「いつもかけてるショールだって自分で作ったやつだし」 カノンはこれこれと、リリィの肩のショールをつまみあげた。 「いい?」 了解を得て、絵麻はカノンの背中ごしにショールに触れる。 目のつんだショールは上品で、手触りもよく高級品のようだ。 「これが手編み?! ホントに?!」 「よく子供たちの縫い物やってもらうもん」 「そうなの?」 「第8寮のみんなは変わり者だけど、孤児院手伝ってくれてるんだよ。リョウ は無料診察してくれるし、翔と信也は機械の修繕してくれるし。シエルたち は……」 その時だった。 「お姉ちゃん」 3人の前に、1人の男の子が立った。