「え……いいんですか?」 「カノンは仕事に出ていていないけれどね。お茶を出すくらいならできるわ」 微笑んで、シスターは自分の腕で車椅子を方向転換させた。 その後ろに小麦色の髪をした、頬にそばかすの浮いた顔をした女の子がつき そい、車椅子を押して行く。 絵麻は少しためらったのだが、思い切ってその招待を受けることにした。 はじめて入った教会の中は外見どおり質素で、絵麻が想像していたような十 字架やステンドグラスなどはいっさいなかった。 背もたれのないベンチと、絵麻の見慣れないなにかを祭った粗末な祭壇があ るだけだ。 シスターと女の子はその礼拝室を横切り、小さな部屋に絵麻を案内した。 シスターの私室なのだろう。絵麻が使っている部屋より多少広かったがやは り質素で。 でも、手縫いらしい淡い色のカーテンや不器用なレース編みのテーブルクロス は部屋の持ち主の雰囲気と同じで素朴な暖かさを伝えてくれる。 「そこに座ってちょうだい。メアリー、お茶を用意してくれるかしら」 シスターは女の子にいいつけると、自分で車椅子を動かして絵麻の向かいに 座った。 「まずは畑の整備をしてくれること、ありがとう」 シスターの第一声は、改まった礼の言葉だった。 「いえ……」 絵麻はもじもじと指先をいじりまわした。 正直、礼の言葉に慣れていないのである。 「本当に感謝しているの。私がこんな体だから、畑はあっても雑草畑のような 状態でね。植え付けだけは近所の方がしてくれるんだけど」 「そうなんですか?」 「男の子たちは畑仕事を覚えるころにはここを出て行くでしょう。手入れする 人がいなくて」 「そうなんだ……」 ほどなく女の子がカップにいれたお茶を運んできてくれた。 やわらかい匂いが部屋を満たす。 「どうぞ」 「いただきます」 すすめられたお茶は、ふわっと甘かった。 「いい匂いでしょう? お客様用のお茶よ」 「いいんですか? そんなのわたしに出しちゃって」 「だって、うちはいつもお客様が来るわけじゃないもの」 シスターは朗らかに笑った。