4.カノン それから、絵麻はカノンのいる店へと通うようになった。 最初はおずおずとだった絵麻も、カノンの飾らない明るい性格に引かれ、次 第に積極的に交流を求めるようになった。 「いい? 堂々としてればいいのよ。絵麻は何も悪いことなんかしてないんだ から」 最初のころびくびくと財布の中をあさっていた絵麻に、カノンはよくそういっ たものだった。 「でも……」 「正しいコトしてるんだよ? 何も怖がる必要なんかない」 「……」 カノンが教えてくれたのは、通貨のことだけではなかった。 上手な買い物の仕方や、今日はどんな品物が安いか。故郷である西部の鉱山 町の話もよくしてくれた。 リリィも時間を見つけては店に現れ、カノンに通訳してもらいながら絵麻と の話に花を咲かせた。 そうして、その優しい日々はいつの間にか、絵麻のいつの間にか疲れていた 心を癒していってくれたのだった。 「おはよう!」 第8寮の朝はこの一声ではじまる。 絵麻が充填完了、120%の笑顔で、台所に立っている。 「あ……おはよ……」 元気印の笑顔に慣れてないのがシエル、唯美、哉人の3人組。 「おはよ」 すっかり慣れてくつろいでいるのが翔、リリィ、信也、リョウの4人。 「たまご、何にする?」 絵麻はフライパンを片手に、呆然としている3人に聞いた。 「たまご?」 「卵焼き、目玉焼き、スクランブルエッグ。どれがいい?」 「じゃ、オレ卵焼きで」 「アタシはスクランブルエッグ」 「残りのでいい」 「ちょっと待っててね」 絵麻はエプロンの裾をなびかせると、台所のカウンターに入って行った。 「先にコーヒー飲んでて」 トンと音をたてて、マグカップが3つカウンターに並ぶ。 「慣れてるなー……」 「絵麻の手際のよさ、みくびらないほうがいいぞ」 「達人だもんね」 新聞片手にコーヒーを飲んでいる信也と、パンをほお張っている翔。 2人の前にはやわらかそうなパンを盛ったカゴと、サラダの小皿がある。 ちなみに大きめの皿が出ていたのだが、2人とも食べ終えてしまったらしく からっぽだった。ただし、翔の方にある皿にはたまごのからがある。 「何食べたの?」 「え? えーっと……」 「これこれ」 隣のテーブルにいたリョウが、自分の大皿を傾けた。 食べかけの目玉焼きとボイルされたウィンナー、それと一口サイズに切られ た果物がのっている。