カノンの言葉に、リリィは頷いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「?」
リリィがペンを走らせ、それを読み取るのに少しタイムラグがあった。
「『急に飛び出して行ったから心配してるんだよ』って。飛び出して来たの?」
「ごめん……」
絵麻は頭を下げた。
「だから思い詰めたみたいな顔してたんだ。緊張してるのはいつもだけど」
「え?」
「あたし、雑貨屋でバイトしてるからね。絵麻のことは結構よく見てたの」
「嘘」
絵麻は真っ赤になった。
「ウソついてどうするのよ。大事にされてるなーって思ってた」
その後で、カノンはしげしげと絵麻を眺めて。
「苦しくなかった?」
「え?」
「お嬢様とか見てるとさ、いっつも思うのよ。周りがちがちに固められてて苦
しくないのかなーって」
「別に苦しくないけど……」
言いながら、絵麻は考えていた。
自分は苦しかったのか?
突然世界が変わって。今まで当たり前にできていたこと、覚え直さなければ
ならなくなって……。
「・・?」
「どうしたの?」
2人にのぞきこまれ、絵麻ははっとして茶水晶の瞳を見張った。
「あ……」
「疲れた顔してるよ?」
「そうかな……」
リリィがそっと絵麻の肩に手をかけた。
包むような仕草。
視線を上げると、新緑色の目が『疲れているよ』と語りかける。
「……」
「ね、たまには1人で動いてみない?」
「え?」
「いつまでも人に面倒みてもらうワケにはいかないんだしさ。PCが終わって
混む夕方じゃなくて、店がすいてるお昼頃においでよ。それなら人に遠慮する
必要ないし」
「でも」
「間違ってたり、わかんなくなったらその時はあたしが教える。だいたいレジ
にいるからさ」
「……」
思わずリリィを見上げた視線に、彼女はメモ帳に短く書き付けた。
『カノンはあの店で働いているんだよ』と。
「そうなの?」
「臨時雇いだけどね」
カノンは肩をすくめた。
「でも、それなりにちゃんとできるよ? どう?
一日中部屋の中っていうのもつまんないでしょ?」
カノンが明るい目で笑いかける。
「いいの……かな」
絵麻はためらったのだが、リリィはうながすようにその肩を軽くたたいた。
「リリィも、いいでしょ?」
こくんとリリィが頷く。
「決まりっ。第8の連中に話通しといてね」
どうやら、2人の間で取り決めがかわされてしまったらしい。
「最近会わないけど、みんな元気なの?」
「・・。・・・・・・」
「ホント? 氷上の美少女にそんなこと言ってもらえるとは光栄だわ」
「・・・・・・・・・・・?」
「元気だよ。相変わらずなよっちいけどさ」
2人はメモ帳を介してしゃべっている。とても楽しそうに。普通に。
リリィが体をあけてくれたので絵麻もメモ帳をのぞきこめたのだが、会話が
早くて読めなかった。
そんな雰囲気を察したのか。
「じゃ、絵麻。明日からお店に来てね。お昼にだよ?」
カノンは明るく言って、絵麻にぴっと指を突き付けた。