2.会議
「この子を『NONET』に入れる?」
時間軸を少し前に逆上る。
Gガイア国中央西部、エヴァーピースのとある寮館で、ちょっとした騒ぎが
持ち上がっていた。
議論の主役は肩につくかつかないかの黒髪を左サイドでピン止めした、15、
6歳くらいの女の子。
学校の制服を着ていて、ぱちんとした瞳は茶水晶のように澄んだ茶色。手に
はしっかりと銀細工のペンダントが握られている。
その子を話題の中心にして若い男女が7人程、議論の真っ最中だった。
「そう。Mr.PEACEからの指示」
青がかった黒髪の少年が、女の子の肩を押さえた。
黒いジャケットを着た長身の持ち主で。少年……というのにちょっと疑問符
がつくくらいに優しい、深い茶色の目をしている。
「Mrが?」
「この子の持ってるパワーストーンが貴重品なんだ。だから、本人ごと面倒を
見ろって」
「?」
最重要点だけまとめた解説に、聞き手のほうはわからずきょとんとなる。
過程が抜けてるんだから当然か。
「……リョウ、わかった?」
「わかんないって」
隣合って座っていた男女が視線を合わせて、同時に息をついた。
「翔、もうちょっと詳しく説明してよ」
説明を求めたのは『リョウ』と呼ばれた女の方。
スカーレットのピアスと鎖状のブレスレット。肩の出るデザインのTシャツ
と革のベスト。
ショートボブに切られた髪はチョコレートブラウンで、みつめる瞳は紫色だ。
全体的にパンクな印象を受ける。
「だから……」
『翔』と呼ばれた優しい目の少年は、細かな事情を語り始めた。
議論の中心の少女――絵麻が稀なパワーストーンを持ち、その力を使う『マ
スター』であることを。
少し、説明しなければならない。
異世界、『緑の大地』。
ひとつの大陸から成り、有史からガイア王朝に統治される君主制国家。
ここでは100年以上の間内乱が続いている。
『世界を壊したい集団』と『世界を守りたい集団』がいがみあい、100年
という長い時間にわたって対立しているのである。
『世界を壊したい集団』こと、武装集団は北を拠点とし、北部3部を制圧し
て今も破壊活動を行っている。
これに真っ向から対立するのが『世界を守りたい集団』、であるPC。
彼らは中央西部、エヴァーピースに本拠地を置き、各地で兵を募り、物資を
調達して破壊活動に対抗している。
表向きは兵同士がぶつかる生々しい戦争。
しかし、その裏では『パワーストーン』と呼ばれる不可思議な力を持つ石と、
それらの主たる『マスター』の暗躍があった。
武装集団もPCも、お互いに強い力を持つ石を求め、それを自在にひきだす
『マスター』を探し自らの手の内に囲う。
その混戦の中に落ちて来たのが絵麻である。
深川絵麻。なんの力も持たない、平凡な高校生の少女。
彼女が非凡だったとすれば、それは実の姉が有名な芸能人だったことか。
絵麻の姉、結女は一流の芸能人として世間に知れ渡る人物だ。
容姿、学歴、性格ともに申し分のない、花のアイドル。
しかし、悲しいことにそれは『表向き』だった。
結女は自らの保身のためなら他の何事も顧みない。
それは対象が血を分けた実の妹でも同じだった。いや、血を分けた家族だか
らこそ結女には利用しやすかったのかもしれない。
結論を言う。絵麻は結女に殺されたのだ。
絵麻が持っていた、祖母譲りの宝石が欲しいという、それだけの理由で。
そうして、絵麻はこの世界へ――Gガイアへと落ちて来たのだ。
偶然西部にパワーストーンを探しに来ていた、翔の上に。
翔に保護されたまではよかったのだが、彼がふとした拍子にパワーストーン
の中でも凶々しいとされる石、血星石を絵麻に渡したことが全てを狂わせてい
く。
あろうことか、絵麻はその石を体内に取り込んでしまったのだ。
そのせいで翔が所属する一団『NONET』に居候することになり、あげく
戦場についていって武装集団の首領、パンドラと一戦交えるハメになってしまっ
た。
当然大敗し、殺されかけたのだが、絵麻が持つ祖母の形見の石、青金石が不
思議な力を発揮したことで救われた。
武装集団首領『不和姫』を退けた石。
PC総帥であるMr.PEACEが目をつけないはずがない。Mrは絵麻が
石を持つのなら……と特殊能力者の集団である『NONET』に絵麻を加入さ
せるように指示したのだ。