「不和姫……久しぶりです」
平和姫は微笑んだ。
パンドラは――不和姫は恐怖に顔をひきつらせている。
不和姫が唯一恐れる存在。唯一、不和姫を消すことの出来る存在。
それが『平和姫』だった。
「帰りましょう。わたくしたちのあるべき場所へ」
平和姫がパンドラに歩み寄る。
そして、恐怖に顔をひきつらせて後ずさるパンドラを、平和姫はその腕に
優しく抱きしめた。
ずるりと、パンドラを形作っていた闇が溶け出す。
それは虹色の輝きに包み込まれ、綺麗に浄化されていく。
「いやだ……私は、この世界を……」
抗うパンドラもまた、光の中に消えていく。
光の中に、パンドラはかつての恋人の姿を見た。
――やっと会えた。
彼は言った。
自分はあの夜、パンドラが王都に連れ去られた夜。約束どおりに迎えに
行ったのだと。
――でも、あなたは来てくれなかったじゃない。
パンドラがそういうと、彼は表情を曇らせた。
自分は、村人に捕まった。
抵抗したが、殺されてしまった。
それを知ったパンドラは叫んだ。
――つらかったでしょう? 痛かったでしょう?
――世界を、私を恨んだでしょう?
彼は静かに首を振る。
微笑を浮かべ、こう言った。
――恨んでなどいない。
――ただ、君のことだけが心配だった。
その言葉に泣き出したパンドラを、彼は抱きしめた。何度も何度も、長い
髪を撫ぜる。
――もういこう。
2人で、今度こそ一緒に。
パンドラは涙でぬれた顔を上げると、笑った。
遠い遠い昔。まだ彼の側にいた頃の、清らかな笑顔だった。
――いきましょう。
パンドラは静かに凪いだ表情で、彼の手を取った。
その彼女のもう片方の手に、小さな光が3つ寄ってきた。
パンドラはその光をすくいあげて手の中に包むと、静かに微笑んだ。
そして、光の中に消えて行った。