闇の中に5人は立っていた。 一度、光がはぜた時にはもっと闇は薄かった気がした。けれどそのあと で、ふいに闇はその濃さを増した。錯覚なのだろうか? 「暗いな……もう1回火」 「止めたほうがいいと思う」 能力を使おうとした信也を、翔がとめる。 「何で」 「さっき、ティシポネは明かりを狙ってきた。同じ事繰り返すのはやめた ほうがいいよ」 そのうち目も慣れるだろうからと、翔はそう言った。 目をこらして見るが、ただ、闇が広がっているだけだった。 ふとした瞬間に体の中に入り込んで、不安で覆い潰すような。 夜の、安息の闇とは違う。もっと暗い感情を呼び起こすものだ。 絵麻はぎゅっと、翔のジャケットの袖を握りしめた。 早く行かなくては。 皆が、危ない目に遭っている。何か、取り返しのつかないことが起きて しまったら? 嫌な予感に、体が震えた。 「……大丈夫だよ」 そんな絵麻の様子を察したのだろう。翔が小さく言った。 「でも、何の根拠もない」 「絵麻は信じてないの? 皆が強いこと、絵麻だって知ってるでしょ?」 だから、大丈夫だと。安心させるように声が繰り返す。 絵麻は小さく頷いた。 目が慣れはじめる。そこには重力を無視して、縦横無尽に階段が廻らさ れていた。 高くなったところには玉座。その前に置かれた、ふたの開いた小さな箱。 それは横倒しに倒れ、辺りに黒い灰がこぼれていた。 「ここって……!」 廊下の先じゃない。 ここは、パンドラの玉座だ。 それを警告しようとした瞬間、絵麻は奇妙な違和感を感じた。 体の中に氷を入れられたような寒気がする。 「あれ?」 それは他のみんなも感じていたようだった。 「何だか、寒い……」 「リリィも?」 その次の一瞬だった。 明るい場所で、一気に照明を落とされた時のように、何も見えなくなっ た。 「え……」 音も聞こえない。 翔のジャケットの袖をつかんでいたはずなのに、それもなくなっている。 「翔……? リリィ? リョウ? 信也?」 名前を呼ぶ声は、すぐに闇に吸い込まれて消えてしまった。 「みんな……?」 「不安そうね。『平和姫』」 その時、唐突に高飛車な声がした。 目の前の闇がゆらぐ。 そこは先ほどの玉座の前だった。 さっきと違うのは、周りに誰もいなくなっていること。そして、玉座で パンドラが頬杖をついていることだった。 「パンドラ……!」 「ようこそ。随分早かったわね」 「みんなをどこにやったの?!」 「平和姫との対決を邪魔してほしくなかったから、アレクトとメガイラに 任せたわ」 「!」 残るエウメニデス2人の名前を出され、絵麻が硬直する。 「2人にも私の力を与えたわ。今頃どうなっているかしらねぇ」 パンドラは絵麻の表情の変化に舌なめずりして笑った。 「……!」 絵麻の手が、知らず知らずにポケットの中のペンダントを握りしめる。 「みんな……」 祈りにも似たつぶやきが、絵麻の唇からもれた。