自分を何かあたたかいものが包んでいる。
絵麻はゆっくりと目を開けた。
いつの間にか、星は消えていた。明けはじめの白い空がある。
「あれ……?」
何で外にいるんだろう。
その時、絵麻は自分を包んでいるあたたかいものの正体に気づいた。
翔が、触れられるほど近くで、自分を腕に抱いたまま眠っていた。
(――?!)
必死に昨夜の記憶を手繰り寄せる。
自分が泣いていたことは覚えている。翔がなぐさめてくれていたことも。
――ひょっとして、泣き疲れてそのまま眠ってしまったんじゃ?
ふと見ると、自分の肩に、2人で一緒に買いに行った翔のジャケットが
着せかけられていた。
翔は当然、ジャケットを着ていない。下に着ているタートルネックだけ
だ。
絵麻が冷えてしまわないように、自分の上着をかけてくれたのだろう。
「……」
時間はわからなかったけれど、明るい中にこうしているのはまずいだろ
う。誰かが起きてきて通りかかったらしゃれにならない。仲間内ならから
かわれる程度ですむが、他の事情を知らない人に見つかったら通報される。
「翔。翔、起きて」
絵麻は小声で言うと、翔の肩を揺すった。
「ん……あと少し……」
「寝ぼけないでよ。起きて起きて」
「……あれ?」
翔は目を開けてしばらくは状況を把握していなかったようで。少しして
から首を振って、目をこすった。
こんな状況なのに、絵麻は翔の、その子供のような仕草が可愛いと思っ
てしまった。
「あー……絵麻、おはよう」
「おはようございます」
目を見合わせる。
能天気なやり取りに、思わず笑いがこぼれた。
絵麻は孤児院の台所を借りると、お世話になったお礼を兼ねて朝食を作っ
た。
シスター達はまだ起きていない。眠っているうちに出て行くことにして
いた。後で気づいてくれるだろう。
甘えついでに、自分達のぶんを少し失敬する。保存用に焼きしめたパン
に、肉と野菜をはさんだもの。少ししかなかったが、それでもみんなは喜
んでくれた。
「うん。やっぱり絵麻ちゃんのごはん♪」
「人の台所を使いこなすから怖いわよね……」
簡単な食事を終えると、全員で外に出た。
空が青い色を次第に強くしていく。今日もいい天気になりそうだった。
絵麻は空を仰いで、眩しさに目を少しだけ細めた。
「あー、腕がまだしびれてる」
横で翔が手首を動かしていた。火傷の手のひらがゆらゆら揺れる。
「ごめんね」
「いや、構わないけど」
「え、お前も?」
反応したのは信也だ。
「信也もなの?」
2人が顔を見合わせる。
「お前ら……」
哉人が翔、信也、リョウと視線を移し、最後に絵麻をみてため息をつい
た。
「え?! なんでため息つくの?!」
「……絶っ対生還して彼女作ってやる」
横のシエルが言った言葉に、哉人は何度も頷いていた。
「はーい。そろそろ行くよ?」
唯美が手を叩いて、全員の視線を向けさせた。
彼女は既にパワーストーンを準備していた。
「そういえば唯美の瞬間移動って、場所知らないと行けないんじゃ」
「1回絵麻を探しに行ったでしょ? あの地点になら行けるわよ」
「そっか」
「じゃ、行くよ?」
唯美が目を閉じて集中する。
彼女を中心に、白い光が湧き上がり。
それは次第に大きくなっていき――。
光が消えた時、10人の姿もまたエヴァーピースから消えていた。