「何を……」 Mr.PEACEはたたみかけるように言った。 「『平和姫』には『守護者』と呼ばれる存在がある。平和姫の器は女性体 だから、基本的に男性がなる。万が一、器が平和姫召喚に失敗した場合、 彼女の身を守るために盾となることを神に定められた不幸な存在。安全装 置の役割を果たすため、器に好意を持つ」 「!」 翔が体を強張らせた。 「嘘っ……」 翔の気持ちは、勝手に作られたもの? 作り物の体。けれど、心は、感情は自分のものだと信じていた。 それさえも、作り物?! 崩れそうになる絵麻の体を、リリィが支えた。 「絵麻!」 「こんなのやだ……」 「絵麻、しっかりして!」 「こんなの、嫌だよ!」 翔は表情を歪めていたが、苦いものを飲むようにして、Mr.PEACE をにらんだ。 「……貴方には守りたい人はいないんですか?」 Mr.PEACEはつと、翔に目をとめた。 「大事な人、守りたい人はいないんですか? その人が同じ立場に置かれ たらどうしますか? 貴方はそれでも、世界のためにその人を差し出しま すか?」 「なら、逆に尋ねるが」 Mr.PEACEの静かな声に、感情が混ざった。 それは怒りであり、同時に、理解を求める祈りにも聞こえた。 「お前はその守りたい、大切な人を失って絶望したことはあるか? 自分 には全く関係のない者の命で、大切な者を救えるとしたら、どうする?」 「何を……」 「私にはミオが全てだ! ミオを生き返らせるためなら何でもする!」 「死んだ人は生き返らないわよ?」 「生き返る。生き返るさ」 Mr.PEACEは狂った瞳で告げ、背後の扉に向かった。 「呪いが解ければミオは生き返る! 戻ってくるんだ!!」 叫んで、扉を開ける。 強い腐臭と、僅かに清潔な花の匂いがした。 「……!」 扉の先は小さな部屋だった。窓際に花瓶が置かれ、その下にベッドがあ る。 そこに、人が1人寝かされていた。 人だった物、と言った方が正しいかもしれない。 なぜなら、それはミイラだったから。 「!」 絵麻は翔の背中に顔を埋めた。 ミイラ化した遺体。おそらく、女性。 それがわかるのは、ひからびた骨が露出した頭部に、亜麻色の長い髪が へばりついていたからだった。 額の辺りに、銃弾で穿たれたと思われる穴がある。 「ミオ……」 Mr.PEACEは愛しげにそのミイラの名を呼び、彼女の枕辺に膝を ついた。 そして、微笑んで。ところどころ骨の突き出た手を握った。