何日経っても、翔は戻ってこなかった。 絵麻はPCに行かないからわからなかったが、ずっとユキと一緒だとい う話は伝え聞いていた。 『NONET』の事があるからと、信也とリョウがユーリのところに相 談に行ったのだが、ユキは国府から客員として招いた重要人物である事と、 個人の恋愛事情にまで口を挟むほど野暮ではないとして、ユーリにあっさ りあしらわれた。翔が別の場所で暮らしていても、参加してくれるのなら こちらはそれで構わないと。 「そっちが構わなくてもこっちが構うんだよ」 珍しく、信也はそう毒づいていた。 「もう帰ってこないのかな」 食事の時についつい翔のぶんの皿を出してしまう癖は、絵麻に残ったま まだ。 誰かに指摘されて気づくのだが、翌日になると忘れたように同じ事を繰 り返す。 「ご飯、余っちゃうんだよね。翔がいちばんいっぱい食べてくれたから」 「アイツ、大食いだからな」 「信じられない量食べて、太らないから羨ましいよ」 「……脳が壊れてるのかも」 「え?」 リョウが言った言葉に、絵麻は目を見張る。 「どういうこと?!」 「あの食欲、はっきり言って異常よ。あんなに食べられるわけない。 でも、この前の話を聞いて、わかった気がする」 「何が」 はっきりしない言い方に、絵麻は焦れた。 「爆発事故に巻き込まれたんなら、頭を打っていてもおかしくないでしょ? 臓器を人からもらわなければいけないほどに損傷したんならなおさら。 食欲中枢が壊れてるんじゃないかな」 「それって」 「いくら食べても満腹感が得られないのよ。それで大食いになるの」 「そんな……」 「もしかしたら、体のいろいろな部分に爆弾抱えていたのかも。手の火傷 に気を取られてた」 リョウは悔しそうに言った。 ひょっとしたら、意図してやっていたのかもしれない。一部分だけ見せ て、そこだけが真実のようにスポットライトを当てて。 そうして、本当に隠したい部分を隠しとおした。 何も知らなかったんだなと、絵麻は改めて思った。 翔にずっと助けられて、彼に好意を抱いていたのに。翔がつらいこと、 黙っていた事に気づかなかった。甘いふわふわした気持ちに酔っていた。