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 唯美がPCから帰ろうと表通りに出ると、アテネがいた。
 彼女は泣きだしそうな目で、ひとつの場所を見ていた。
「?」
 視線の先にいたのは翔とユキで。
 2人で買い物袋を持って、家路についているようだった。大きい荷物を
全部持っている翔と、その腕にすがって楽しそうに笑うユキ。
「アテネ」
 唯美は駆け寄ると、アテネの肩を叩いた。
「唯美ちゃん!!」
 アテネはみるみる表情を崩すと、唯美の腕の中に転げ込んできた。
「助けてあげて……お願い! 翔さんが可哀想だよ!!」
「ここで叫んじゃだめ」
「だけど!」
「ヘンな評判たったら、翔がますます苦しくなるから」
 唯美はアテネの肩を押すと、そのまま翔たちが歩いている方向とは反対
側の、建物の陰に行った。
 周囲を確かめてから瞬間移動をかける。早く帰ってシエルに引き渡そう
と思ったのだ。
 けれど、シエルはまだ帰っていなかった。
「唯美姉さん?」
 廊下を歩いていたところで、階段を上がってきた封隼とはち合わせする。
「あ、お帰り」
「ただいま……どうしたの?」
 唯美が連れているアテネは、相変わらず泣きそうな目をしている。
「何? 立ち話?」
 少し遅れて階段を上がってきた哉人は、わだかまっている3人にそう声
をかけてから、アテネの泣きそうな目に気づいたようだった。
「唯美、何泣かしてんだよ」
「アタシじゃないわよ!!」
 アテネが唯美の服をぎゅっとつかむ。
 そして、そのまま静かに泣き始めた。
「アテネ」
「ちょっ、泣いちゃだめでしょ?!」
「やだよ……やだよぉ……」
 結局、いちばん近い場所にある哉人の部屋に一時退避することになった。
これ以上騒ぎを大きくしてもいいことはない。
 哉人の部屋はいちばん少年らしい気がした。雑誌や趣味のものが散らばっ
ているのがそう見せるのかもしれない。
 よく見ると、その雑誌もそれぞれ種類の違う専門書だったりするのだが。
「ほら。あんまり泣くと兄貴がキレるぞ」
 哉人はチェストの引き出しからタオルを出してくると、アテネに投げた。
「ふえ……」
 アテネがタオルの中でしゃくりあげる。
 封隼は一度階下に戻って、絵麻に紅茶を入れてもらっていたようだった。
トレイに4人分乗せて戻ってきた。
「はい、2人分」
 トレイを机に置いてから、2人のカップを差し出す。
「ありがと」
「どうした? 何があった?」
 唯美はアテネを見てから、先ほどの出来事を話した。
「……なるほど。納得」
「最近、前にもまして一緒だからな。たまたま見ちまったってとこか」
「たまたまとか言っちゃやだ!」
 アテネが反論する。
「誰かが苦しいのは嫌だよ! アテネ、いたくない場所にいるのがどれだ
け苦しいか知ってるもん」
 アテネには、貴族に軟禁されていた過去がある。扱いは貴族の気分で変
わった。
「何かウソみたいだな。絵麻と翔のことからかって遊んでたのが遠い昔み
たい」
「うん。アタシもそんな感じ」
 言って、唯美は行儀悪くベッドにひっくり返った。
「翔、封隼と似た顔してるよな」
「え?」
「?」
 中央人と東部人は似たような外見だが、この2人の顔は似ていないはず
だ。そもそも、封隼は姉の唯美とも似ていないのだから。
 視線を受けて、哉人は言葉を直した。
「顔っつーか……表情。ここに来た頃の封隼と、今の翔はよく似た顔して
る」
「そういう顔の時の気持ちは?」
 唯美はマイクよろしく、帽子を壁によりかかっている弟に差し出した。
 封隼はしばらく考えてから口を開いた。
「本当の気持ちが言えなくて、苦しかった。おれも姉さんのこと探してた
から」
「唯美が姉貴だって、わかってたのか?」
「ああ」
 封隼はあっさり頷いた。
「嘘」
 唯美が、がばっと体を起こす。
「Mr.にそう聞いた」
「嘘よ。アタシ、聞いてないわよ?!」
「え……」
 唯美が行方不明の弟をずっと探していたことは、Mr.PEACEだっ
て知っていたはずだ。
「そもそも、何でMr.が知ってるんだよ。絶対にわからないはずだ」
「どうして?」
「調べたんだよ」
 哉人は唯美に頼まれて、国府の戸籍データベースに侵入したことがある
のだと他の2人に説明した。
 唯美の弟、コ陽は行方不明者として扱われていた。武装集団にいた者に
戸籍はないから、封隼と結びつけて考えるのは不可能だ。
「封隼、Mr.に何か言った?」
 封隼は首を振った。
「……何で?」
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