【転章】 「ユーリ」 Mr.PEACEは机で事務仕事をしていた、忠実な部下を呼んだ。 「はい。Mr.」 ユーリはペンを止めると、彼の机の前に歩み寄る。 「何でしょう」 「絵麻を呼んでくれ」 「はい。いつ頃に致しましょうか?」 「3日後辺りか。仲間と別れをさせてやる期間を考えてやらんとな」 Mr.PEACEの喉の奥から、抑えた笑いがもれる。 それを聞いたユーリの瞳が、暗く沈んだ。 「……時が来たんですね」 「ああ」 「絵麻ちゃんは全てを知ったのですか?」 「世界に全てを見せられ始めている。まだ完全ではないが、それだけで充 分だ」 ユーリはすぐには答えなかった。ぎゅっと拳を握り、喉元までせりあがっ た感情を飲み込んだ。 「私は貴方に忠誠を誓います」 「頼りにしている」 口元に笑みさえ浮かべるMr.PEACEに、ユーリは静かに頷いた。 そして、心の中で「けれど、貴方を決して許さない」と密かに付け加え た。 濃緑に赤い斑点が散った石に、赤い液体が落とされる。 石の表面に一滴落ちるたびに、ジュッと赤い蒸気があがる。そして、石 にぼんやりとまとわりつく輝きが大きくなっていく。 メガイラが液体を全て落とし終えると、ぼんやりとしていた輝きはかな りはっきりとしたものに変わっていた。 「素晴らしいわ」 パンドラがそれを見つめ、うっとりと頷く。 「ピュア・ブラッド。ほぼ完成にまで近づきました。あの娘の憎しみは相 当の物だった」 注がれていたのはユキの血液だった。 パンドラの半透明の体も、石に呼応するように色を取り戻していく。 「フフ。そろそろかしら」 彼女は口元に手を当て、しかしこらえきれないように大きく笑った。 「憎しみの血で世界が壊れるなんて、これ以上ふさわしい事はないわ。そ う思わない?」 「はい」 アレクトが、メガイラがひざまづいて頭をたれる。 ティシポネは顔中を口にして笑うと、パンドラにすりよった。 「姫、姫、もう復活できる? 遊べる?」 「そうね。最後だから華々しくしましょうか」 「どっかーん?」 「そうそう」 言って、パンドラは嘲るような笑いを浮かべた。 「復活の贄はアイツの血にしましょう。愚かな偽善者にして、100年の 間苦しめ続けてくれたあの男の血」 パンドラは名前を言わなかったが、その場にいた配下たちは、それが誰 かを示しているのかわかっていた。 「パンドラ様、全て我らにお任せ下さい」 「不和姫の御心のままに」