桜の雨が降る 3部4章7
【転章】
届いた荷物を、エリフセリアが使っている倉庫に運び入れる。
運送業者は何の不審も抱いていない様子だった。見た目だけでは、通常の荷物と大差ない。持ってもわからない。さすがにその道で長くやってきただけはある。
欲をかかなければ、いくらだって偽装を続けられただろうに。
よりによって、優桜に見つかるようなヘマをやらかすとは。こちらが用心して時間をあけてから出てやったのに、なんであんな場所で連絡を取ったのか。ホテルのロビーなら人が多くて誰も気づかないとでも思っていたのだろうか。ウッドは真面目そうな、でも世間慣れしていなさそうだったあの秘書のことを考えた。
間違いはないはずだが一応確認しておこうと、ウッドは今運びこんだ荷物のうち、ひとつの蓋を開けた。巧妙な偽装カバーの下に手を入れれば、冷たい鋼鉄の感触がある。カバーを取り除き、ウッドは中身を確認した。ガイアで違法とされる殺傷力を持った武器を。
長くは置かない。自分も彼らと同じことをする予定だから。ただし、彼らとは全く別の、警察の手がまだ届いていないルートを使って。
「優桜に気づかれなきゃ、長くこき使ってやったのに」
詠うような調子で言うと、ウッドは小さく笑った。
わかっているんだよ。『正当な理由さえあれば人を傷つけても何も感じないなんて、それは人を傷つけたことがない人の一方的な思い込み』なんて言えるのは、大天使様か不感症患者のどっちかだって。オレはそんなのを言える人間じゃあないんだよ。
自分たちのように頭の中がイカれた奴らなら、矛盾を承知で平然と言ってのけるか。そう思って、ウッドはもう一度笑った。
正当な理由があって、壊れるほど誰かを殺したいと思ってて、実際に括り殺しても高いびきで眠れてしまうような『壊れた人』ってのが、本当に世の中にはいるんだよ。知っているかい、ベビーちゃん?
――普通の善人の顔をして、な。
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