Love&Place------1部1章8

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 絵麻が目を開けると、そこは真っ暗な場所だった。
 あまりに暗くて、自分が目を閉じてしまっているのか、それとも開けているのに見えないのかがわからない。手を伸ばしても冷たい闇があるばかりだ。足下もおぼつかない。まるでプールの中にでもいるようにふわふわしている。
 どうしてこんな場所にいるのだろう。早く戻らなくては。お姉さんに叱られる――そこまで考えたところで、絵麻は自分に何があったかを思い出した。
 ペンダントを返して欲しいということから始まった口論。姉は祖母のことも自分のことも家族だとは思わず、自分が芸能人として人気を取るための道具としか見ていなかったこと。そして、姉に首を絞められて――。
 自分は、きっと死んでしまったのだ。
 ひどく悲しかった。どうしてこんなことになったのだろう。そして、ここはどこなのだろう。周囲があまりに暗くて、ここからどちらに行けばいいのかもわからない。
 絵麻は思わず両手で顔を覆った。その時、自分の指先に何かが絡んでいたことに気づいた。
 それは発端となったペンダントだった。
 ぼんやりと光っていて、その周囲だけ闇が薄くなっていた。絵麻はペンダントをかざして四方を見回してみたが、ここが真っ暗な場所だと再確認が出来ただけだった。
 これからどうすればいいんだろう。
『……麻ちゃん』
 誰かに呼びかけられたような気がして、絵麻は顔を上げた。
『絵麻ちゃん』
「お祖母ちゃん?!」
 絵麻のことを「絵麻ちゃん」と呼ぶのはひとりだけ。亡くなった祖母だけだ。
「お祖母ちゃん、どこにいるの?」
 絵麻はペンダントの光を頼りに周囲を探した。ずっとずっと会いたかった。抱きしめてもらいたかった。
「ねえ、隠れてないで出てきてよ! 迎えに来てくれたんでしょ? これからずっと一緒にいられるんでしょう?」
 自分が思った通りであるなら、祖母のいる場所でずっと一緒に暮らせるはずだ。
『ごめんね、絵麻ちゃん』
 祖母はなぜか、絵麻に詫びた。
「何で? お祖母ちゃんは関係ないのに」
『私が至らなかったばかりに、あなたに引き継がせてしまった……』
「……何、それ?」
 突然出てきた言葉を絵麻は聞き返したのだが、祖母は答えてくれなかった。
「お祖母ちゃん、何を言ってるの? わたし、もうひとりで我慢したくないよ。死んだのならお祖母ちゃんの側にいたいのに」
『あなたは私と同じ。だから、もう一度出会う時が来る……その時は、あなたの望み通りになるはずだから』
 瞬間、ペンダントから凄まじい青い光が放たれた。
『ここで終わりではない。あなたの強い願いが、あなたの未来を守ってくれる。
 さあ、いきなさい。あなたの役目を果たしなさい』
 光を直接見ることはできず、絵麻は片方の腕で目を庇い、ペンダントを持った手を遠ざける。いつしか暗闇は晴れ、絵麻の眼下にはやわらかな緑に覆われた大陸が見えていた。
 ひゅうっと、耳元で風が鳴る。みるみるうちに緑色の大地が絵麻めがけて持ち上がってくる。
 ――違う。絵麻自身が大陸めがけて落ちている。
 訳がわからないまま、絵麻は悲鳴をあげた。眼前の緑色の大地はいつのまにか荒れ果てた焦土に変わっていて――激突を覚悟して絵麻は身体をすくめた。
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