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「信也さん!!」
 彼はぐったりと崩れ落ちた絵麻を抱きとめて、翔に渡した。
「正直、絵麻にはつらすぎるだろう」
「絵麻だけじゃないわよ……」
 席に戻ってきた信也に、リョウが小さく言う。
「俺のせいだから、俺が殺ってくる。唯美、移動だけ頼めるか?」
「ううん。アタシがやる」
 唯美は首を振った。
「アタシのせいだよ。アタシが抜けちゃったから皆で行く事になったんで
しょう?」
「姉さんのせいじゃないよ」
 封隼がぽつりと言う。
「姉さんの代わりができなかったおれのせいだ」
 顔色が悪いのは、病気のせいだけではないのだろう。瞳が熱で潤んでい
る。
「封隼くん、点滴しなきゃ死んじゃったよ?」
 アテネも蒼白で、瞳にためた涙を瞬いて何とかこぼさないようにしてい
た。
「アテネがいけなかったの。アテネが我侭を言ったの。お兄ちゃんの側に
いたいって、言ったの!」
 叫んだ瞬間、アテネの目からついに涙がこぼれた。
 誰もが責任を感じていた。
 少しでも違えば、リリィの記憶を戻らないままにできたから。リリィを
殺さなければならないような、こんな最悪の事態にはならなかったから。
 それは、翔もそうだった。
 絵麻を優先して、リリィに暗殺を任せてしまった。そこが最後の分岐点
だ。だから、責任がいちばん重いとすればそれは自分だろう。
「僕が行く」
「翔」
 翔は自分の考えていた事を話した。
「それは違うよ。翔のせいじゃない」
「そうだよ。それにお前、殺せるのか?」
 翔の性格の優しさも、誰もが知っている。
 それに、翔はリリィとはパートナー関係なのだ。絵麻が来てから3人で行
動するようになったのだが、絵麻の次にリリィに近しい存在だといえる。
「殺せる」
 翔ははっきりと言った。
「苦しめないで、一瞬で、跡形もなく……それがリリィに最後にできること
だから」
 その言葉にこめられた悲壮な覚悟に、全員が頷いた。
「翔に任せるよ。Mr.に情報流れないようにこっちは細工しておくから」
「今夜行って来る。唯美、移動だけ頼む」
「わかった」
 唯美もつらそうに目を伏せ、頷いた。
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