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「メアリー!」
「あ、絵麻だ」
 翔の忘れ物をPCに届けた帰り道、絵麻は荷物を持って歩いているメアリー
=クラウンの姿を見つけた。
「それ、孤児院の荷物?」
「うん」
 メアリーは孤児院で保母の見習いをしている女の子だ。多少ゴシップ好きな
のが難点だが、明るい気のいい女の子である。
「途中まで一緒だから、半分持ってあげるよ」
「助かるー。ありがと」
 2人は荷物をわけると、再び歩き出した。
「最近、調子はどう?」
「まあまあ。メアリーは?」
「養父さんの仕事が忙しくて、孤児院との両立がちょっとタイヘン、かな」
「そうなの?」
「うん。わたしのお養父さん、PCの警察部に勤めてるから」
 メアリーは南部系の少女だが元は戦災孤児で、中央人の夫婦に養女としても
らわれているのである。
「PC警察部って……例の連続傷害事件?」
「そう。いろいろタイヘンみたい。ものの見事に犯人捕まってないし」
「そうだねー……」
「絵麻も戸締りとか、1人で外歩く時とか気をつけたほうがいいよ」
「うん。わかった」
 絵麻は空を仰いだ。
 そろそろ日が暮れる時刻だ。孤児院まではだいぶある。
「少し急ごうか。暗くなっちゃう」
「うん」
 道の先の方に視線をやったその時、絵麻は道の端に誰かが立っているのに気
がついた。
 もうメインストリートはとっくに通り過ぎていて。この先にあるのは孤児院
と第8寮ぐらいだ。
「……」
「絵麻?」
 立ち止まった絵麻に、メアリーが首を傾げる。
 と、立っていた人影がこちらに近づいてきた。
 思いのほか長身で。左手に、細長い棒状の何かを携えている。
(――!!)
 絵麻はとっさに、メアリーを左側に突き飛ばした。
「絵麻?!」
 突き飛ばされたおかげで無人になった空間を、もう残り少なくなった日ざし
を反射した刃が通り過ぎていく。
「メアリー、逃げて!」
 絵麻はメアリーをかばうように、間に割って入った。
 がっしりとした長身の男性だ。信也ぐらい……いや、この感覚は信也そのも 
のである。
 辺りが暗くなってきていたので、はっきりと顔は見えなかったのだが。
 ただ、頭部の辺りが闇に包まれているような、そんな感じがした。
「……信也?」
 出された名前に男はにやりと唇を歪ませると、その場を立ち去っていった。
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