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 昼ご飯の片付けを当番だった面々と一緒に終えてしまうと、絵麻は子供服の
袋とクッキーの袋とを持って、リリィと一緒に孤児院に向かった。
「いい天気だね」
 話しかけると。リリィが頷いてくれる。
「こういう日って、ピクニックしたくならない? わたしだけかな」
 手がふさがっていたのでリリィはメモ帳を出さなかったのだが、表情は苦笑
しつつも優しくて。
 彼女が何を言いたいのか、絵麻は今ならなんとなくわかると思えた。
 2人で孤児院の前庭に入る。いつもの午後と同じように、子供達が遊んでい
た。
「あ、絵麻姉ちゃんとリリィ姉ちゃん」
 目ざとく2人を見つけたディーンが駆け寄ってくる。
「今日は何? 何持って来てくれたの?」
「シスターに頼まれてた服と、クッキー。後でメアリーに分けてもらってね」
「やったあ!」
 その時になって、絵麻はディーンの横にいるのがケネスではなく、別の男の
子だと言うことに気づいた。
(あれ?)
 茶色の髪と、琥珀色の瞳の男の子。ディーンと同じ年頃のようだ。
「ディーン、その子は? 新しくここに来た子?」
「ううん。フーガはミオ姉ちゃんの子供」
 そういえば、前にそんな名前を聞いた気がする。
「ミオさんの?」
「うん。ミオ姉ちゃんが仕事してる間は一緒に遊んでるんだよな。な?」
 ディーンが、フーガと呼ばれた男の子の背を叩く。
「そういえば、ケネスはどうしたの?」
「ケンならさっき転んで膝すりむいて、メアリーに連れてかれた」
「……またか」
 その時、リリィが絵麻の肩を叩いて荷物の袋を取ると、孤児院の建物を指さ
した。
「先に中に入ってる」と言いたいのだろう。
「あ、わかった。シスターたちによろしくね」
 リリィは頷くと、建物の中に入って行った。
「あの人、口がきけないの?」
 フーガが聞く。
 その表情は、意地悪くねじまがっていて。
「かわいそう」
「……どうして?」
 どきっと、嫌な感じに心臓が跳ねた。
「だって、しゃべれないんだよ? かわいそうでしょ」
「リリィはかわいそうじゃないよ」
「そうなの? かわいそうな人しかこの世にはいないのに」
「フーガ?」
 ディーンもきょとんとした目で、隣の友達を見ている。
「ここの子達はおとうさんもおかあさんもいないでしょ。僕だっておかあさん
はもういないからさ」
 意地悪そうに歪んでいたフーガの表情が、寂しそうに陰る。
「え? フーガくん、ミオさんの子供なんでしょ」
「あの人は、僕のおかあさんじゃないよ」
「……?」
 その時、賑やかな女の子の一団が転がるようにして絵麻のところにやってき
た。
「絵麻お姉ちゃん!」
「えまねー!」
 フォルテと杏夏を筆頭に、孤児院の幼い女の子たちが5人ばかり。そのあと
から、小さくてそっくりな亜麻色の髪の女の子2人がこれも転がるようにかけ
てきた。
「フーガおにーちゃん」
「おにーちゃん!」
「ピアノ。ピアニー」
 フーガが笑顔になって、かけて来た亜麻色の髪の女の子を抱きとめる。
「? その子達は?」
「ピアノちゃんとピアニーちゃん。双子なの」
「本当はピアニシモっていうんだよな」
「フーガの妹なんだよ」
「へえ」
 察するに、兄妹3人が母親に連れられてこの孤児院に遊びに来たというとこ
ろか。
「絵麻お姉ちゃん。今日も遊んでくれるの?」
「クッキー持って来たんだよ」
「クッキー?」
 子供たちが目をきらきらさせる。
「そろそろ3時かな。メアリーに渡して分けてもらおうか」
「うんっ!」
「早く早く!」
 子供達が競争するように絵麻の手を引っ張って、建物の中に連れて行こうと 
する。
 いつの間にか、絵麻は笑顔になっていた。
 いつまでもこんな日々が続くといい。
 そう、心の奥で強く願った。
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