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 翌日は気持ちいいほどに晴れた、小春日和で。
「忘れ物ないね? いってらっしゃーい」
 絵麻は最後に出て行った哉人に手を振ると、自分の仕事を片付けに第8寮の
中に戻って行った。
 出かけるのは午後3時半なので、それまでに夕食の下ごしらえなどを終わら
せておかなければならない。
「そうだ。午後から出かけちゃうんだったら、午前中のうちに孤児院に行けな
いかな」
 今までずっと寮の自分の部屋にこもっていたから、少しは手伝いたい。
 そう考えた絵麻は、洗濯と夕食の下ごしらえを午前中の早いうちに終えてし
まうと、孤児院まで出かけることにした。
「こんにちはー」
「あ、いらっしゃい」
 大量のシーツを抱えたメアリーが出迎えてくれる。ディーンやケネスといっ
た面々は学校に行っているのか、いつも遊んでいる前庭に姿がなかった。
 メアリーの後には、タオルなどを小物を両腕に抱えたフォルテやシアなどの
小さな子がついて来ている。
「お洗濯?」
「うん。今日、天気いいじゃない」
「手伝おうか?」
「頼める? まだ洗濯場にいっぱいあるの」
「わかった」
 絵麻は孤児院の廊下を歩いて、洗濯場に向かった。
 途中で、亜麻色の髪を束ね、メアリーと同じく洗濯物を両腕に抱えたミオと 
すれ違う。
「おはようございます」
「おはよう。絵麻、だっけ?」
「はい」
「手伝いに来てるの?」
「たまに、午後からですけど」
「それじゃ、今日は早いのね?」
「はい。午後からユーリのところに行くんで」
「ユーリ?」
 名前に、ミオの琥珀色の瞳が揺れる。
「もしかして、ユーリ=アルビレオのこと?」
「ええ。知り合いなんですか?」
「こっちに住んでいたころ、少しね」
 そう言った時のミオの目のあまりの悲しさに、絵麻はどきりとなった。
(この人……?)
「絵麻ー? ミオ姉さんー? 洗濯物は?」
 その時メアリーの声がして、絵麻ははっと外を振り向いた。
「あ、いけない。今行きます。絵麻、行きましょう?」
 ミオが応じて、絵麻を促す。
 けれど、その瞳の中の悲しい色は消えてはいなかった。
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