戻る | 進む | 目次

 絵麻たちが集団生活をしているのには理由がある。
 深川絵麻。
 明宝翔。
 リリィ=アイルランド。
 秋本信也。
 リョウ=ブライス。
 シエル=アルパイン。
 琴南哉人。
 隼唯美。
 海封隼。
 アテネ=アルパイン。
 この10人は『NONET』と呼ばれるPC裏部隊に所属しているのだ。
 表向きの顔は平和部隊PCの職員。しかし、一度有事となると全員がパワー
ストーンマスターとしての力を使い、秘密裏に暗躍する。
 と言っても、絵麻は事実上は『青金石(ラピスラズリ)の発動研究のため』翔に預けられてい
るという位置づけである。自分のできることを追及していくなかで、気がつけ
ばメンバーの後方支援に落ち着いていた。
 だから、絵麻の表向きの仕事は全員の家であり作戦本拠地であるPC第8寮
を綺麗に整備することである。
 彼女はここ数日寝ていた間にたまった掃除と洗濯を、みんなを送り出した後
の午前中の時間をつかって軽やかにこなしてしまった。
 窓を開けて、気持ちよく朝の掃除をする。埃のたまったチェストの下も、雑
巾でぴかぴかに磨きあげて。
 掃除と平行作業で洗濯もこなす。ガイアにも洗濯機はあって、パワーストー
ンを原動力に動くのだ。洗いあがった洗濯物を持って裏庭に出ると、緑のいい
匂いがした。
(気持ちいいな……)
 このまま日だまりに寝転んで昼寝、といきたいところだが、そうも言ってい
られない。
 絵麻は自分だけの簡単な昼食を取ると、午後からは買い物にでかけた。
「こんにちはー。フリードおじさん」
 いつもの雑貨店の戸を開ける。中年の主人がカウンターの中にいた。
「絵麻じゃないか。しばらく顔を見なかったけど?」
「うん。ちょっと頭が痛くて」
「南部の方から新しい品物が届いてね。見て行くといいよ」
「はい」
 この店ともすっかりおなじみになった。
 今日の買い物は夕食の材料に加えて、メンバーが食べ尽くしてしまった非常
食の缶詰、ビン詰めの補給である。
「ちょい重いかな……あ、イワシの缶詰。フライにすると美味しいんだよね」
 たちまち買い物カゴはいっぱいになった。
「えっと、21エオローと48フェオ、だな」
「はい。21エオローと50フェオ」
 絵麻は金貨3枚と紙幣1枚をレジに出した。
「2フェオのおつりだよ。上手くなったもんだね」
 銅貨を手渡しながら、店主が笑う。
「へへ」
「しっかし、一人では重くないかい? 孤児院の方まで帰るんだろ」
「うーん……」
 買い物カゴ2コ分の荷物。ここから第8寮まで、歩いて20分。車はもちろん、
自転車もない。
「……どうしよ」
「2回に分けて持って行くかい?」
 その時、元気な声と共に1りの女の子が店に入って来た。
「おじさん、こんにちは! 孤児院で頼んでいた小麦粉のことなんだけど!」
 小麦色の髪にカチューシャをつけた、明るい表情の少女。
「あ、メアリー」
 メアリー=クラウン。第8寮の近所にある孤児院で保母の見習いをしている、
活発な女の子だ。
「絵麻! 随分久しぶりね。顔見せてくれないからシスターと一緒に心配して
たんだよ?」
「ごめんごめん。ちょっと寝込んでて」
「そうだ。おじさん。頼んでいた小麦粉なんだけど、増やしてくれない?」
「何袋だい?」
「えっとー……2つ」
「わかった。お代はいつものやり方でいいね?」
「うん。PCのツケで」
 メアリーは12歳だが、こういった交渉もらくらくこなす。13歳で成人するガ
イアという世界を生き抜く者としては当たり前の姿勢なのだろうが、現代の12
歳を知っている絵麻には新鮮に見えた。
「シスターのお使い? 偉いね」
「偉いも何も、雑用はみんなわたしの仕事よ? シスター、足不自由だし」
「そっか」
「絵麻は買い物?」
「うん」
「またいっぱい買ったねー……」
「メアリーの用事はここでおしまいなのかい?」
 会話に加わった店主に、メアリーは笑顔で頷くと。
「ん。後はおじさんに新しいニュースでも聞かせてもらおうと思って!」
 メアリーの弱点というかご愛嬌な部分というか……それは教会系列の孤児院
にいる人間とは思えないほどゴシップ好きなところである。
(こーやってマメに情報入手してたのか……)
「そうだな。今は絵麻が荷物持ちに困っていることくらいしか話題がないが?」
「? わたし、持ってあげようか?」
「ホント?」
「た・だ・しー」
 メアリーはにまっと笑むと、絵麻に『ある事』を耳打ちした。
戻る | 進む | 目次
Copyright (c) 1997-2007 Noda Nohto All rights reserved.
 
このページにしおりを挟む
-Powered by HTML DWARF-