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電磁壁エレクトロウォール!」
 振り下ろされた切っ先を、電子の壁が弾いた。
「?!」
 パンドラが赫い目を上げる。
 月明かりを背にして立っているのは、黒いジャケットを着た長身の青年。
 手の中で緑色の石が輝いている。
 明宝翔が、そこに立っていた。
「殺させないよ……絵麻は僕が守る」
 横で短剣を構えるのは、純金の髪持つリリィ=アイルランド。
 彼女の瞳にも、絵麻を守ろうという意志が凛とみなぎっている。
 パンドラは一瞬、何かを思い出したような目をして、その直後に高笑いを
響かせた。
「アハハハ……」
「何がおかしい?!」
「これが『カミサマ』とやらの意志? 『世界』の演出?
 だとしたら受けてたちましょう。『不和姫』パンドラとして。
 そうでしょう……『守護者セイバー』サン?」
「……セイバー?」
 当惑する2人を尻目に、パンドラは颯爽と夜風にダーティ・ブロンドと薄物
の衣服とをたなびかせた。
「正々堂々と勝負しましょう。そして物語を作り上げましょう。今度こそ、私
が完全なる勝利をおさめる物語を」
 パンドラが雅な仕草で薄物の裾を持ち、頭を垂れる。まるで「以後お見知り
おきを」とでも言うかのように。
 その姿が、おぼろに夜の闇にかすみ、消えて行く。
「待てっ!!」
 翔の雷撃がパンドラのいた場所を襲うが、それは地面を焦がしただけだった。
 妖艶な微笑だけを残して、パンドラは消えた。
 後には頭から血を流して倒れている絵麻が残される。
「絵麻!!」
 翔が抱き起こすと、絵麻は小さく呻いて眉をしかめた。
「い……たい……」
「絵麻、わかる? わかる?!」
「ねえ、わたし生きてるの……?」
「生きてるに決まってるだろ! 何言って」
 翔の手の、火傷しそうに熱い感触に、絵麻は大きく息をつく。
「あのね、わたしわかんなくなったの。わたしが生きてるのか、死んでるの
か……。でも……」
 舌が上手く回ってくれない。目眩と耳鳴りがひどい。
「ねえ、わたしはわたしなのかな……?」
 かろうじてそれだけ呟いたのを最後に、絵麻は意識を失った。
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