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 次の場面は、鬱蒼とした密林だった。
 潅木が生い茂り、その向こう側には急流の川が流れている。
 その鬱蒼とした中に、数十人の人がいた。
 そこにいる人々は、大ざっぱにいって2種類に分けられた。
 着の身着のまま、1カ所に集められている一般人と、その回りを逃げないよ
うに囲っている黒衣の武装兵。
 着の身着のままの人々は、まるで家畜のように1カ所に集められていた。
 悲嘆にくれて泣いている者。気丈にも、武装兵を睨みつける者。
 そんな彼らの視線の先には、焼けて壊滅した町の瓦礫がある。
 そう。武装兵がやったのだ。
 静かだった夜のこと。突然、平和な町に武装兵が奇襲をかけた。
 もともとが小さな町だ。自警団と、PCから派遣されていた少数の自衛部隊
はあっと言う間に全滅した。
 武装兵は町に乗り込み、殺戮と破壊の限りを尽くした。その惨劇からかろう
じて逃げ出し、町の裏手の潅木に逃げ込んだ者たちも、そこに潜んでいた別動
隊の武装兵に拘束された。
 その別動隊の武装兵は人々を家畜のように1カ所に集めると、手にした機械
で人々の間を歩き、何かを調べているようだった。
「どうだ? 反応は出たか?」
 リーダー格らしい、長身の武装兵が機械を手に調べいてた武装兵に聞く。
「ダメだ」
 結果を聞いて、長身の武装兵は仲間を呼び集めた。
「どうする?」
「処分だろう。決まっている」
「じゃ、処分する前に楽しませてもらってもいいよな」
 何人かの武装兵が、下卑た笑いを突き合わせる。
 ほどなくして、人々の中から何人かの若い年頃の娘が引きずり出された。
 彼女らの表情はいずれも恐怖にひきつっている。
 悲鳴と怒号とが辺りに交錯した。
「……何を、するの?」
「ヤボなこと聞くなよ、隼」
 その中で、1人の武装兵が隣にいた武装兵に話しかけた。
 武装兵、というには年が幼い。7歳くらいだろうか?
 無理やりに大人用の軍服の丈を詰めて着ているのだろう。肩や袖のあたりは
生地が余ってしまっている。
 辺りの闇と同じくらい黒い漆黒の瞳。栄養状態がよくないのか、髪の毛はぱ
さぱさに乾いた灰色をしている。手足も細い。
 武装兵は集められた年頃の娘の1人を組み伏せながら、少年兵に告げた。
「お前はもう少し大人になってからな」
「……?」
「そうだそうだ。隼にはまだ早い」
「……」
 そうして、凌辱の宴がはじまる。
 少年兵は目の前のおぞましい光景を、無表情に眺めていた。
(どうして、人が嫌がることができるんだろう……)
 その肩に、手がおかれる。
「?」
 その手の主は、リーダー格の武装兵だった。
「隼。お前は、あいつらの処分をしろ」
 くいっと、集められている市民の群れを指す。
「処分?」
 リーダーは少年兵に銃剣を手渡した。
「これで殺せ」
「……」
「川の前に1列に並ばせて、それで胸を刺すんだ。刺した後、死骸は川のほう
に転がるから始末の心配がいらない。簡単だろう?」
「…………」
 少年兵の黒い瞳が物憂げに曇る。
 それを見て、リーダーは低い声でささやいた。
「それとも、お前が殺されたいか?」
「…………けど」
 リーダー格の男が、自分の銃剣で少年兵の肩を撫でる。軍服が裂け、赤い筋
が流れ始めた。
「…………」
 少年兵は手の中に落とされた銃剣を見つめると、小さく頷いた。
 そして、お楽しみの輪にに加わるリーダーと入れ違いに市民たちの方に行く
と、低い声で告げる。
「……川の前に並べ」
 とたんに市民たちの間にざわめきが上がる。
「殺されるのか?」
「助けてくれるんじゃないの?」
「いやあっ。いやあっ!」
「お母さん……!!」
 その時、何人かの市民がグループになって少年兵に襲いかかった。
 相手は初等学校にあがるくらいの年頃の子供だ。複数で挑みかかればあっけ
なく倒せると考えたのだろう。
 が、生憎と少年兵は普通の子供とは違っていた。
 体重にまかせて殴りかかってきた相手を瞬間移動でかわすと、背後から首筋
めがけて手にしていた銃剣をたたきつける。
 ごとん、と頭部が転がる音。辺りに血が吹き上げる。
「……!」
 襲いかかろうとしていたグループが硬直する。
「どうだ? お前らも、こんな風に惨く死ぬか?」
 少年兵は微笑みながら言った。
 できる限り、残虐になること。
 相手に恐怖を植え付け、おとなしくさせること。
 やらなければ、自分がやられてしまうこと。
 それが、少年兵が武装集団から学んだことだった。
 そうして少年兵は嫌がる市民たちを輪の中から次々引きずり出すと、川の前
に立たせてその胸を銃剣で突いた。
 ぱっと、血しぶきがあがる。ついで断末魔の呻きがあがるが、それは川に落
ちるときの水音にかき消された。
 少年兵は機械を思わせる無表情ぶりで、次々と市民を処刑していく。
 水面はみるみるうちに、流れ出た血で赤く染まっていった。
 その水面に何度も少年兵の涙が落ちたのに、気づいた者はだれもいなかった。
 そこで、場面がぱちりと切り替わった。
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