意識が混濁していく。 身体にこびりつく痛みさえなければ、眠るのと同じような感触だ。 視界が狭まり、周りのことが何もわからなくなって……。 「観念したみたいね! 5数えたら殺してあげる!!」 (殺す? 誰を……?) 絵麻は落ちかけた瞼を、多少の激痛を覚悟で持ち上げた。 翔が倒れている。 パンドラが、忽然とした表情でその翔に手をかざしている。 さっきみた破壊の闇が、掌底にあふれかえっている。 「5……」 (翔を殺すの……?) ふいに意識が生々しくクリアになり、絵麻ははっきりと瞳を開けた。 パンドラの忽然とした表情までもが、刺すように目の奥まで入ってくる。 「4……」 (殺さないで) 動かそうとした手から腹部へ、腹部から全身へと鮮烈な痛みが走る。それで も、絵麻は必死に体を動かそうとした。 「3……」 (殺さないで……殺さないで!) 動かない体がもどかしい。 かといって、動けたところで自分に何ができるわけでもない。 それでも、絵麻は思い続けた。 「2……」 (お願い、殺さないで。その人は……) 裂かれた腹部から、新たな血があふれだす。 ペンダントを握っているはずの指先も、感覚がなくなってきた。 「1……」 (なくしたくないの……だってその人は……) ついに体から、完全に力が抜ける。 視界がまた暗く、狭くなる。痛みが消える心地よい一瞬……。 「アハハ、死になさい!」 (その人は、わたしのこと認めてくれた人! だから、殺さないで!!) 遠のく意識で、絵麻は強く願っていた。 強く強く……願い続けた。