戻る | 進む | 目次

  無論、即死だ。
「え……?」
  全員が呆然と、崩折れていく貴族の体をみつめる。
「誰だ?!」
  いちばん反応が早かったのは哉人で、長針が飛んで来た方向に油断なく身構
える。
  誰何の声に姿を現したのは、黒いローブを羽織った小柄な女性だった。
  左右の目は伏せられている。その間の額には黒水晶が埋め込まれている。
「あんたは……メガイラ?」
  パンドラの側に親しく仕える武装兵たちの束ね役、0階級。
  額に黒水晶をいただく、闇の階級。
「『NONET』……またわたくし達の邪魔をするのですね」
「それがどうした?!」
  淡々とした物言いに、シエルが毒づく。
「お前がこの貴族を後ろから操ってたのか?!  オレたちの情報をコイツらに与
えたのもお前なんだな?!」
「いかにも」
  メガイラは悠然と微笑んだ。
「しかし、失敗しましたね……まさかあの女の子が生きていたとは。
  あれだけの量の薬を飲ませて、念には念をと剣で刺しておいたのに」
「……テメェ!!」
  シエルが怒りに拳を震わせる。
「やってくれるよ……おかげで生き証人がパアだ」
  哉人がワイヤーを構える。
「代わりにアンタの首をもらおうか」
  言葉と同時に哉人はワイヤーを放ったのだが、メガイラはローブの下から出 
した長針でそれを弾き返した。
「青雷撃(ライトニング)!」
「空切刃(コンクィレン)!」
  翔の雷撃が、唯美の空気の刃がそれぞれメガイラに襲いかかったのだが、メ
ガイラは雷撃を長針に吸収させ、目が見えないとは思えない機敏な仕草で空気
の刃を避けた。
「!」
「はずした?!」
  とはいえ、かなりの運動量だったらしい。メガイラの頬を汗が伝う。
「今度はもらう!」
  翔が技を発動させようとしたその時、メガイラが意外な一言を放った。
「平和姫(ピーシーズ)」
「え?」
「平和姫はどうしたんですか?  あの女の子の中には、確かに接触した痕跡が
残っていたのに」
「平和姫?」
「いないのなら貴方がたにこれ以上の用はありません」
  メガイラの体が闇に溶けはじめる。
「待てよ!」
  シエルが転がっていた瓦礫をメガイラに投げつけたのだが、瓦礫は闇を素通
りして向こうの壁に当たった。
  そうしてメガイラは去って行った。
戻る | 進む | 目次
Copyright (c) 1997-2007 Noda Nohto All rights reserved.
 
このページにしおりを挟む
-Powered by HTML DWARF-