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  瞬く間に、4人は貴族屋敷の、花の咲き乱れるあの庭に来ていた。
「ここでいいの?」
「うん」
「へえ……綺麗なとこじゃない。もう冬も近いっていうのに、こんなに花が咲
いてる」
「パワーストーンで温度調節してるんじゃないか?  この前は夜で気がつかな
かったけど、ここに機械がある」
「あ、ホントだ」
  唯美と哉人は庭を物色していたのだが、シエルだけはじっと、ベランダのあ
る屋敷の窓を見つめていた。
  あの中にアテネが、大切に思い続けた妹がいる。
「時間まだ?  もう出てきてもいいよな」
「えっと……」
  絵麻はウェストポーチから時計を取り出して、明かりに透かす。
「うん。もう時間になってるけど」
  その時、ガサリと草を踏む音がした。
「アテネか?!」
  シエルが振り返る。
  しかし、そこにはアテネとは全くかけはなれた容貌の人物が立っていた。
  金髪蒼眼の、がっしりとした中年の体つき。高級そうなスーツを着こなし、
傲慢そうな表情の端々にゆるみなく虐待の悦びをにじませている。
「誰?!」
  絵麻は思わず、側にいた唯美の後ろに身を寄せた。
「アテネちゃんじゃない……」
  予想していなかった事態に呆然としながら、シエルだけが相手を的確に呼ん
だ。
「あんたは……あんたは4年前に孤児院に来た、あの貴族……」
「ってことは、ここの屋敷の貴族?」
「困るな。人の家に勝手に入ってもらっては」
  貴族が両手を広げる。途端に、今まで静かだった庭園のそこかしこから武装
兵の一団がわきだしてきた。
「?!」
「罠……か?」
  ヨーヨーからワイヤーを引き出しながら、哉人が言う。
「そんな!  だって、この事を知ってるのは……」
  自分たちと、アテネだけ……。
「アテネが……裏切った?」
  シエルが呆然と呟く。
  貴族は憐憫の微笑みを浮かべて、シエルに言った。
「あの子は『お兄ちゃんに会いたくない』と言っていたよ」
「嘘だ!!」
「可哀想にね……あの子は泣いて私に言ったよ。『この豪華な庭園を出て、N
ONETになんか行きたくない。人殺しの仲間になんかなりたくない。お義父
さま助けて』とね」
「……」
「そして何より、自分を裏切った兄にほとほと愛想が尽きたそうだ。本当の事
を知っていたくせに、どうしてもっと早く自分を迎えに来てくれなかったんだ
とね」
 貴族はいつの間にか、獲物をいたぶる残虐な笑みを顔いっぱいに広げていた。
「アテネは……本当にそう言って……?」
  シエルの表情が虚ろになる。
「ああ」
  貴族が手で合図する。ばらばらと、武装兵がシエルを取り囲んだ。
「人殺しに墜ちたお前を殺してくれって」
「シエル!」
  武装兵の群れがシエルにつかみかかる。
  黒い軍服と夜の闇とが一緒になって、シエルの体を見えなくする。
「シエル!  シエル!!」
  そう叫ぶ絵麻のすぐ側にも、武装兵はにじりよって来ていた。
「絵麻!!」
  唯美がとっさに絵麻を押し倒して、彼女ごと庭の端へと転がって逃れる。
「バカ!  アンタだって危ないのよ?!」
「けど、シエルが。シエルが!!」
 唯美の腕の中で、絵麻はじたばたともがいた。
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