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  無理な姿勢でものを飲みこまされたせいで、アテネは錠剤を吐き出してしま
う。
「ごほっ!  ご……」
  咳き込むアテネの顔を貴族は強引に上向かせた。
  そしてまた錠剤を放り込み、水を注ぎ込む。
「いやあっ!」
  飲み込むことのできないアテネが吐き出す。
「飲むんだ!  とっとと飲み込め!!」
  貴族はまるで人形にするかのように、何度もアテネの口に錠剤を放り込んだ。
  何回目からかは飲ませた後に貴族が口を布で覆ったのだが、それでも口の中
から水があふれ、豪華なカーペットにたまりを作った。
  身の毛もよだつようなそれが何度か繰り返された時、ついにアテネがかくり
と顔を横に向けた。
  瞳は開いたままで。その目にはもう、さっきまでの凜とした光はない。
  貴族は無抵抗になったアテネの口にもう何回か薬を押し込むと、メガイラに
聞いた。
「これで効くのですか?  ビンはからっぽになりましたけど」
「ええ。椅子にでも座らせて尋問しましょう」
  ぐったりとなった体を椅子に座らせる。
「さあ、言え。お前は何を隠している?」
  のろのろと、アテネの口が動く。
「……おにい、ちゃん」
「あ?」
「お、にいちゃ、んが……来る」
「いつ?  誰と一緒に来るんだ?」
「夜に、庭、で……絵、麻ちゃん……と、もひと、り……」
「全て話しなさい。お義父さまが聞くとおりに」
「は、い……」
  虚ろな目のアテネは、聞かれるままに全てを話した。
  貴族は新しいおもちゃを手に入れたような顔でいろいろと質問した。自分達
をどう思っているかをきいて、素直なアテネの答えに頬をひっぱたいたりして
楽しんだ。
  しかし、新しいおもちゃはやがて飽きられる。
  ひととおりの情報を聞き出した後、貴族はうんざりといった調子でアテネの
側から離れた。
「虚ろな目をして口を開けているのは気味が悪い。オウムの方がまだマシだ」
「では、殺しておしまいなさい」
  メガイラが、貴族がさっきアテネを脅すのに使った短剣を示す。
「殺すのですか?!」
  貴族は動揺したのだが。
「狩りと同じですよ。心臓を一刺し。狩りは貴族のスポーツでしょう」
「そうですね」
  メガイラにそう言われ、彼はアテネの胸に短剣を突き立てた。
  ざくりと音がして、短剣があっけなく胸に刺さる。
 薬のせいか、アテネは何の反応も示さなかった。
「よし、では軍を動かしましょう」
  貴族は意気揚々と部屋を出て行った。
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