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「え?」
「お兄ちゃん!!  シエルお兄ちゃんでしょ?!」
  シエルは部屋の奥にいたプラチナの髪の少女を視界に認め、息を飲んだ。
「お兄ちゃん?!」
  絵麻と哉人はぎょっとして目を見合わせる。
  シエルの唇が震えて名前を紡ぐ。初対面のはずの少女の、正確な名前を。
「ア……テネ……?」
「やっぱり、お兄ちゃん!!」
  アテネは絵麻の横を乱暴に擦り抜けると、シエルに抱きついた。
「あっ……と」
  シエルがバランスを崩してよろめく。横を擦り抜けた時に、絵麻のウェスト
ポーチの空いていた口から通信機が床に転がった。
「会いたかったんだよ、お兄ちゃん」
  微笑む頬に涙が伝う。
「そっか……ここの貴族が……」
  シエルは部屋を見渡すと、どこか虚ろな調子で呟いた。
「お兄ちゃん、孤児院はどうしてる?  アテネ……」
  シエルは怖いくらいに無表情になると、アテネが泣いているのにもまるで構
わず、自分の胴に回されたアテネの手をほどいた。
「よかったな」
「お兄ちゃん?」
「いい部屋に住んで、いい服を着て、貴族の令嬢にしてもらってさ。
  障害者で汚い平民のオレはとっとと退散するよ」
「お兄ちゃん、何言って……」
  そのままアテネの横をすりぬけると、絵麻と哉人の元に歩み寄る。
「行こうぜ」
  懐からリターンボールを出すと、思い切り床に叩きつけた。
「シエル?」
  反応した液体から発せられる光が、3人を包みはじめる。
「お兄ちゃん?!」
  何が起きているのかを察したのだろう。アテネが大声をあげた。
「お兄ちゃん、待って。行かないで!  お兄ちゃん!!」
  3人のところに走り寄ってくるが、すでに3人の体は消えかけていた。
  声だけが聞こえてくる。
「お兄ちゃん、行かないで!  行かないで!!」
「おい、声がするぞ」
「アテナイ様の部屋からだ!」
  ばたばたと足音が廊下に響く。
(つかまっちゃう……)
  絵麻は思わず身を固くし、目を閉じた。
  しかし。
「絵麻?!  どうしたの?」
  肩を揺すられ、思わず目を丸くする。翔が自分のことをのぞきこんでいた。
  第8寮に戻って来ていたのである。
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