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  翌日、絵麻はもう一度孤児院を訪れていた。
  孤児院の前庭では、やはり楽しそうに子供達が遊んでいる。
  その中にケネスの姿を見つけた絵麻は、声をかけてみた。
「ケネス!」
「あ、絵麻お姉ちゃん」
  遊びを中断し、ケネスがとことこと絵麻のところにやってくる。
「今日は何の用事?」
「ディーンを知らない?  昨日ケガしてたから、様子を見にきたんだけど」
「ディーン兄ならそっちにいるよ」
  ケネスは孤児院の入り口の、平たくなったスペースを示して、また遊びの輪
に戻ってしまった。
  ディーンは平たくなった部分に座り込んで、ぼんやりと遊んでいる子供達の
集団を眺めている。
その足には包帯が巻かれていた。
「ディーン」
「絵麻姉ちゃん」
  絵麻が声をかけると、ディーンは振り向いた。
「足の具合はどう?」
  ディーンは顔をしかめた。
「立てるけど、走ると痛いよ。だから遊べない。メアリーは打撲だって言って
た」
「そっか」
  絵麻はディーンの横に腰掛ける。
「退屈?」
「うん。遊べないのはつまんない」
「そうだよね」
  活動的なディーンから遊びを取り上げてしまったらつまらないということは
容易に想像できた。
「絵麻姉ちゃん」
  ふいに、ディーンが声をかける。
「何?」
「これ、あげるよ」
  ディーンが握りこぶしを絵麻に向けて突き出す。
「?」
「昨日助けてくれたお礼」
「そう?  ありがと」
  素直に手のひらに受け取って、開いてみる。
  そこでは、丸々太ったアオムシが体をうねうねくねらせていた。
「きゃああっ!!」
  思わず悲鳴をあげて放り出す。
  横ではディーンが身をよじって笑っていた。
「あはは。ひっかかった。ひっかかった!」
「ディーン!!」
  そういえば、カノンが「ディーンは孤児院きってのイタズラ坊主だから」と
言っていたっけ。
  ふいによみがえった、懐かしい友人の面影。
(カノン……)
  沈黙を別の意味に捕らえたのか、ディーンがおそるおそる絵麻の顔を覗きこ
む。
「絵麻姉ちゃん、怒った?」
「ううん。びっくりしただけ。でも、どこで捕まえたの?」
「ケンに頼んだんだ」
「ケネスもグルなの?!」
  その時だった。
「何怒ってるんだ?」
  上から降ってくる声。声の持ち主はディーンと同じ色の髪をしていて、その
プラチナの髪が傾き始めた午後の陽光をちらちらと反射していた。
「シエル」
「シエル兄ちゃん」
「絵麻、来てたんだ」
  シエルがディーンをはさんで、絵麻の反対側に座る。
「ディーンがどうしてるかなーと思って。シエルは?」
「昨日のおふざけ貴族ヤローがまたこないかどうか点検」
「唯美や哉人は一緒じゃないの?」
「この時間だから、そろそろ来ると思うけど……あ、来た来た」
  視線を門の方向にやれば、よく見知ったダークローズの影。
「おーい、唯美!」
  シエルが手を振ると、唯美はうつむいていた顔をのろのろと上げた。
  そのまま生気ないような感じで歩いて来る。
「どうだった?  あのバカ貴族いた?」
「いなかった」
  これだけ答えて、唯美は投げ出すように絵麻の隣に座った。
  仕草にいつもの強気さがない。
  唯美はいつだって元気で、気が強くて、ついでに我も強かったのに。
「唯美?  どうしたの?」
  唯美の異変に気づいた絵麻が声をかけるのと、唯美が来たことに気づいた孤
児達が群がって来るのがほぼ同時。
「唯美お姉ちゃん!」
「遊んで遊んで!!」
「コインあてしようよ?  ね、ね、唯美姉ちゃん」
  子供たちにわっと手をつかまれて、唯美はのろのろとポケットから1フェオ
硬貨を取り出した。
「はい、これが1フェオね」
  器用に指先にのせ、ピンと弾いて空に舞ったところを右手でつかまえる。
「さ、どこにいった?」
「左手!」
「帽子の中!」
「シエル兄ちゃんのポケットの中!」
  唯美のコインあて……これにはあるカラクリがある。
  唯美はパワーストーンとは別に、超能力を使う『隼』という一族の血を引い
ている。瞬間移動はこちら側の能力だ。
  そう。唯美は「どこだ?」と聞く間にコインを瞬間移動で絶対に当たらない
ような場所に飛ばしてしまうのである。
  なかなか当たらないということで、唯美のコインあては孤児院で人気がある。
すごい偶然の確率で当たった子供はその日の孤児院の英雄になれる程に。
  それなのに。
「はい。正解は右手」
  唯美は握った手をそのまま開いた。
「え?」
「なーんだ」
「唯美姉ちゃん。もう1回!」
  子供達がせがむ。
  せがまれるまま、唯美は2回3回と繰り返すのだが、コインは決まって右手
の中だった。
(移動してない?)
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