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(そんな……!!)
「ディーン、ディーン行っちゃダメ!」
  そんな声もむなしく、貴族はディーンを引っ張って行く。
  その時、ドアから人が入って来た。
「シスター?!」
「凄いもめる音がしてるけど」
  一人はプラチナブロンドのくせっ毛と、青い目をした隻腕の少年。
  もう一人は鳶色の長髪にバンダナをかぶせた、不思議な蒼い瞳の少年。
「シエル兄ちゃんと哉人(ちかと)兄ちゃん……」
  シエル=アルパインと琴南哉人。どちらもNONETのメンバーで、絵麻の
友人である。
  孤児院にもよく遊びに来ていて、子供達を何かと構ってやっているのだ。
  シエルは部屋の惨状を見回すと、肩をすくめた。
「またか。貴族ってのはこりないな」
「何を言う」
  貴族はシエルを見回して、フンと鼻を鳴らした。
「北部人のガイジか。色以外何の能もないウジムシが何をぬかす」
「ウジムシだと?!」
  気色ばんだシエルの代わりに、哉人が貴族をにらみつける。
「お前がやってること、立派に犯罪なんだよ」
「犯罪だと?!」
  貴族は今度は哉人を見回し、その美しい蒼の双眸に目をとめた。
「お前は何だ?  貴族にもないような蒼い目をしてるじゃないか。えぐって売
ればさぞかし高く……」
  哉人は吐き出すのをこらえるように眉をしかめた。
「傷害罪と恐喝罪」
「は?」
「あと、さっきので生物不法売買のセンも匂うな」
「平民が何を言って……」
「ここ、PC付属の孤児院だぜ。ここの中での行動ははPCの中と同じ扱いに
なるんだぞ」
  シエルが言う。
  途端に、貴族の赤ら顔がみっともない赤紫に変わった。
「それって……この人、犯罪者ってこと?」
「そうそう。絵麻ちゃん、よくできました」
「くっ……」
  貴族はだんっと床を踏み鳴らすと、ディーンの手を放した。
  途端に立っていられず、ディーンがしゃがみこむ。
「……覚えてろよ」
  それだけ言うと、貴族は帰っていった。
「2人とも凄い……」
  何もできなかった自分に少しの恥ずかしさを覚えながら、絵麻は2人をみやっ
た。
「よくいるんだよ。あーゆー奴」
  哉人は肩をすくめて。
「シスター、ケガは?  手が腫れてるけど」
「大丈夫よ。それよりディーンや外の子のこと……」
「外は唯美を置いて来たから。メアリー、救急箱取って来て」
「はいっ!」
  哉人に言われ、メアリーが外に飛び出して行く。
「大丈夫か?」
  シエルがディーンの横にしゃがみこむ。
「シエル兄ちゃん……」
「泣いてんのか?  怖かったな」
  シエルが片方だけの手で、自分と同じ色のディーンの髪をぐしゃぐしゃにす
る。
「違うんだ……一緒に行けばよかった」
「え?」
  思わず、絵麻はディーンに歩み寄る。
「ディーン、何言って……」
「おれは外見が北部人だから、貴族が高く買ってくれるんだ。そうしたらシス
ターにお金をあげられるのに。おれが捨てられてた時から拾ってずっと育てて
くれてるシスターに楽させてあげられるのに……でもおれ、怖くて……」
  言葉の最後にきた時、ディーンの目から涙がこぼれた。
「バーカ」
  シエルは小さく笑って。
「そんなの、大人になってから返せばいいじゃないか。オレも北部人で孤児だ
けど、貴族に身売りなんかしなかったぞ?」
「……シエル兄ちゃん、本当?」
「おお」
「それにね、ディーン」
  シスターが寄って来たので、絵麻は場所を開けた。
「私はお金が入って来ることより、ディーンがいてくれることのほうがいいわ」
「シスター?」
「ディーンは生まれた時からここにいるのよ?  いなくなったら寂しいじゃな
い。確かにここにはお金があまりないけれど、みんなで食べて行くぶんはPC
が出してくれるから、ディーンは今はまだ何も考えないでいいの」
「シスター……」
  ディーンはシスターの車椅子の膝にすがりついた。
「ごめんなさい。お金になれなくてごめんなさい……」
「そんなことはいいのよ。さ、早くメアリーに手当してもらいなさい」
  その時、救急箱を持ったメアリーが部屋に戻って来た。
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