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「なあ、お前なんで腕が折れたこと言わなかったんだ?」
  数日後。
  封隼は体を起こせる程度に回復していた。
  相変わらず医務室に隔離されたままだが、リョウがヒールを使いつつ手当し
てくれているのが幸いして、胸についた傷はほぼ閉じていた。
 腕のほうはまだ添え木に固定されているが。
  部屋にはなぜか男連中4人がたむろして、雑談ムードになっている。
「……言っても治らないだろ?」
「何で普段は無表情なのに、戦ってる時だけ笑うんだよ?」
「ああいう時なら笑っていいと思うから」
「……普通、逆だろ」
「そうなのか?」
  封隼が意外そうに漆黒の目を見張る。
  表情の変化は乏しいのに、漆黒の目にはよく見るとくるくると感情が浮かん
でいる。
「お前ってひょっとして『世間知らず』?」
「どこでどう育ったのか聞いていい?」
「武装集団の集落で、兵士になる特訓を受けてた。訓練をはじめて2年で戦場
に立つこと許されたよ。あとはずっと戦ってた」
「へえ……」
「わかった。だから感情表現が苦手なんだ」
「唯美と同じじゃん。あいつ、何していいかわかんなくていつも怒ってばっか
りいるからな」
  シエルと哉人が同時に笑い出す。
「こうしてみると、意外と似てたんだね」
「……みたいだな」
  照れたような言葉に、みんな笑った。
「そうだ。俺は用事があって来たんだった」
  急に、思い出したように信也が言った。
「用事?」
「お前、これからもここにいるつもりないか?」
「え?」
  封隼が黒の目を信也に向ける。
「お前がいると、戦力が上がってちょうどいいんだ。今、翔かリリィのどっち 
かを絵麻につけて下げないといけないから」
「……おれがここにいていいの?」
「出て行くつもりなの?」
「もうそろそろ動けるし」
「それで動けるのかよ?」
  シエルが添え木に固定された腕を指した。
「傷だってまだ閉じきってないだろ」
「……」
「出て行ったら唯美が嫌がるんじゃないかな?  やっと会えたんだから」
 翔が言う。
「……そうかな」
  ちょうどその時、唯美が入って来た。
「封隼、起きてる?  ……って何よこの混雑は?!」
  1つの部屋に男ばかり5人。絵的には少々苦しいかもしれない。
「唯美は何の用事?」
「寝てると退屈だろうから、パズル持って来たの」
「大事にされてるじゃないか」
  信也が封隼の、灰色の髪をくしゃっと撫ぜる。
「ここにいろよ。な?」
「……わかった」
  封隼は小さく笑って答えた。
  それは絵麻が初めて見た時と同じ、優しい笑顔だった。
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