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  唯美は荒れ狂っていた。
  アタシたちは──アタシと封隼は姉弟なんかじゃない。
  アタシの弟は別の場所にいる。戦争に関係ない場所に保護されていて、幸せ
に暮らしている。
 アタシが探しに来てくれるのを待っている。
  10年前と同じ……あどけない漆黒の瞳で。
  そう信じて疑わなかった。
  2人、両親が存命だったころと同じように笑いあって、幸せに暮らせる。
  10年前と同じ、日のあたる暖かい場所で。
  その日が来ることを支えに頑張って来たのだ。
  けれど、そんな日はもうこない。
  弟は唯美が憎みに憎み抜いてきた武装兵に成り下がっていた。冷酷な──自
分と同じ瞳で殺戮を繰り返す武装集団の人形になり果てていた。
  弟じゃない。
  自分が捜し求めてやまなかった弟の徳陽は、もうどこにもいない。
  無邪気だった弟は武装兵になったという、認めたくない現実だけが唯美の上
にのしかかる。
  与えられた力を殺戮に使い、血にまみれて生きて来た弟。
  それが唯美には許せなかった。
  そんな思いをするのは自分だけで十分だった。
  弟にはあの頃と同じ、無邪気なままでいて欲しかった。
  なのに──この現実は何?
  アタシは信じられない。信じたくない。考えたくない。認めたくない。
  けれど、これが真実。
  弟と封隼は同じ年頃。自分と同じ、艶やかな漆黒の瞳。自分と同じ能力。
 同じDNAデータ……。
  それら全てが唯美と封隼を『姉弟』という軛で縛り付ける。
「嫌!  嫌!!  嫌あぁぁっ!!」
  唯美の放った空間の亀裂は、ちょうど目の前にあった建物をやすやすと切り
裂いた。
  その陰に潜んでいた武装兵が、ぎくっと体をすくませる。
「ああっ!!」
  悲鳴を上げる武装兵を前に、唯美の心の中にあった行き場のない心は気持ち
のはけ口を見つけた。
  漆黒の、黒曜石のごとき艶やかな瞳の中に、狂おしいほどの殺意が灯る。
「アンタたちは悪。アンタたちは悪者。生きている資格なんてない……死ね!!」
  次の瞬間、周囲の建物を多数巻き込んで、唯美の力が膨れ上がった。
「猛空切(コンライ)!」
「ぎゃあああああああああああっっ!!」
  武装兵たちの哀れな断末魔が響く。
  瓦礫と化した町に佇みながら、唯美は暗い瞳で呟いた。
「排除しなきゃ……この世から武装兵を。この世を汚く縛り付ける全てを」
  唯美は町に入り込み、市民の虐殺を開始した武装兵の姿を求め、南へと足を
進めた。
  その瞳に、武装集団からやっとの思いで逃げて来た、何の罪もない一般市民
の姿が映る。
「ああ……お願いします。許してください……」
  恐怖におののいた声で哀願するのは、子供を連れたまだ若い母親だった。
「もっと命乞いをするんだな。こういう時は『命だけは助けてください。武装
兵さま』だろ?」
  サディスティックに笑い、武装兵は手にしていた剣先で、子供を腕に抱きし
めた母親の頬をつついた。
  抱かれている子供は脅え、母の胸にぎゅっとしがみついている。
「い……命だけは助けてください。武装兵さま」
  母親は震える声で言った。
「よくできました」
  武装兵はぱちぱちと気のない拍手をした。
  その後で、にっといやらしく唇をつりあげて。
「でもな。一銭の得にもならない命乞いしてもらって、それを聞く奴がいると
思うか?」
「そんな!!」
  武装兵は母親に抱かれた子供を乱暴に取り上げ、地面に叩きつけた。
「きゃあっ!」
「ユーツちゃん!!」
  母親が悲鳴を上げる。
「助けて、お母さん!!」
  子供の喉先で、剣が不気味に光る。
  唯美はその光景を見て、逆上した。
  こんな奴がいるから。こんな奴がいるから!!
  瞳に狂おしいまでの光が宿る。あふれ出すやり場のない心はは制御を失った
力となり、激しい奔流となって武装兵に向かって降り注いだ。
「猛空切(コンライ)!!」
「ひっ……」
  悲鳴は一瞬だった。
  生臭い血を辺り一面にぶちまいて、武装兵は肉塊と化した。
  けれど、力の暴走は止まらない。
  暴走した能力は味方をも切り裂く刃となって、やっと助かった罪のない親子
へと襲いかかった。
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