戻る | 進む | 目次

「朝から豪勢というか……」
「っていうか、マメだよね」
  ちなみに、横にいたリリィの皿にのっているのはスクランブルエッグだった。
「普通はたまご一品で済ませるよな」
「はい、お待たせしました」
  絵麻が抱えていた皿を3つ、3人の前に置いた。
「右から卵焼き、スクランブルエッグ、目玉焼きでいいんだよね?」
「うん」
「いただきます」
「パンは翔の前にあるから、回してもらってね。あ、そっちの2人、食べ終わっ
たんだったらお皿洗うから貸して」
  絵麻はサラダを出すのと入れ違いに2人から皿を受け取り、てきぱきとした
手つきで洗っていく。
  文字がよめなかったり、能力を発動できなくてまごまごしている彼女からは
想像できないほどしゃんとして。
「……あのさ」
「何?」
「生き生きしてるのね」
「そう?」
  問いかけた唯美に、絵麻はくすくす笑いながら答えた。
「料理が好きだから」
「アタシはあんまり好きじゃないけどな。片付けるのとか面倒」
「片付けするまでが料理のうちだもんね。コーヒーもう1杯飲む?」
「んじゃお願い」
  唯美はカラになっていたコーヒーカップを差し出した。
  絵麻が入れるコーヒーはいつもの固形インスタントではなく、ちゃんと豆か
ら挽いたものだった。
「あれ?  そんなのあったっけ」
「この前買ったんだ」
「高くつくんじゃねーの?」
  そう口をはさんだのは、唯美の隣に座っていたシエルで。
「ううん。インスタント買うより少し安い。作るのに手間がかかるけどね」
「じゃ、オレもちょうだい」
「はーい」
  絵麻は出されたカップを笑顔で受け取った。
(悪い人じゃないんだけど、ちょっとお金に細かいんだよね)
「じゃ、僕そろそろ行ってくるね。ごちそうさま」
  最後まで飲み終えたカップをカウンターに返しながら、翔が言った。
「いってらっしゃい。そうだ、部屋の掃除どうする?」
「えっと……頼んじゃっていいかな?」
「わかった」
「部屋の掃除までやってんの?」
  手早く食器の中身をかたし、コーヒーを飲んでいた哉人が顔を上げる。
「うん。哉人の部屋も片付ける?」
「ぼくは自分のもの触られるのキライなんだ」
「絵麻、何も触らないわよ?」
  同じように食器を返しに来たリョウがそう言った。
「え?」
「器用に避けて片付けてくれるの」
「って、リョウも頼んでるの?」
「うん」
「リョウ達、今日はどうする?」
「頼もうかな。昨日カルテひっくり返したから」
「俺はいいや。掃除してもらったばっかだからな」
「リリィは?」
  彼女は静かに首を振った。
「わかった。3人とも気をつけてね」
  食器を受け取り、絵麻は手を振った。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
「夕飯、楽しみにしてるね」
  3人は和やかに笑いながら、連れ立って玄関の方へと歩いて行く。
「……」
  それを見て、残された年少3人組はきょとんと顔を見合わせた。
「なじんでる……」
「これが文字の読めないあの子と同一人物なのか……ね」
「?  何か言った?」
「いいや。別に」
  哉人が流して、唯美が上手く話を継いだ。
「それより、最近昼間でかけてるみたいだけど?」
「ああ……お店で買い物教わってるの」
  絵麻の頬が自然に緩む。
「教わる?」
「うん」
戻る | 進む | 目次
Copyright (c) 1997-2007 Noda Nohto All rights reserved.
 
このページにしおりを挟む
-Powered by HTML DWARF-