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 体がバラバラに引き裂かれるのを覚悟していた。
 唯美が助かるならそれでよかった。あの時もそうだった。終わるつもり
だった。
 けれど、そうはならなかった。
 聞こえたのは、唯美の悲鳴。
 封隼とティシポネの間に、いつの間にか唯美が割り込んでいた。
 かぶっている帽子はなくなっていた。長い黒髪が、背中に落ちていた。
 唯美は肩から胸にかけてを、ざっくりと引き裂かれていた。
(どうして……?)
 呆然とする封隼の目の前で、唯美が力なく崩れ落ちる。
 ティシポネと正面から目が合う。しかし、呆然としているのはティシポネ
も同じだった。
 時が止まったようなその場で、いちばん早く動いたのは唯美だった。
 懸命にパワーストーンを取り出す。一緒にナイフが落ちたが、彼女は気
にしなかった。
 唯美はありったけの力で、ティシポネの周りの空間を束縛した。
「!」
 動けなくなったことに気づいて、ティシポネが焦る。
「封隼、早く!」
「姉さん!!」
「早くしなさいッ!」
 自分を助け起こそうとする弟を、唯美は怒鳴りつけた。
 床に転がったナイフを取る。刃を引き出すと、封隼はティシポネの額の
黒水晶に叩きつけた。
 ティシポネが耳障りな悲鳴を上げた。
 音を立てて闇が巻き上がる。ティシポネの体はどんどん崩れて行き、最
後に2つに割れた黒水晶がからんと転がった。それすらも砂のように崩れ
た。
 それを確認してから、唯美は倒れた。
「唯美姉さん!」
 封隼は唯美を抱き起こした。シャツを朱色が染める。
「バカ……アタシが、アンタ見捨てて、弟、これ以上、ケガさせて……平
然としてられると、思ったの?」
「そんな」
 唯美は苦痛に表情を歪めた。
「痛い……」
「決まってるだろ!」
「こんなに痛いのに……何でアンタはいっつも我慢できんのよ?」
「……」
「そうしなきゃいけなかったんだろうね……守ってあげられなくて、ごめ
んね」
 唯美は目を閉じた。
「やだよ……唯美姉さん! 唯美!!」
 自分の声が震えるのを、封隼は初めて聞いた。
 失いたくない。
 自分はどれだけ傷ついても構わないから。
 だから、唯美を、やっと見つけた姉を、自分から取り上げないで!
 呼ぶ声に、唯美は薄く目を開けると、かすれた声で言った。
「ねえ……最後に、お願い。ゆいみ、じゃなくて……ウェイメイって。
本当、の、名前で……」
「……嫌だ」
 封隼は首を振った。
 瞳の奥が熱く歪んだ。
「最期みたいだ。呼んでほしかったら、生きろ」
 生きていれば、きっと。
 きっと、想像もつかないような幸せがあるから。
 おれは、みんなに、姉さんに会えたから。
 姉さんに守ってもらえたから。
 それは言葉にはならなくて。唯美はしばらく目を開けていたのだが、
吐息と共に目を閉じた。
「姉のいうこと聞きなさいよ……まったく、それでこそうちの弟って感
じ……」
「もうしゃべらないで」
 封隼は言って、朱色に染まったシャツをちぎると、唯美の傷口に巻き
つけた。
「リョウのとこ、連れて行くから。だから、それまで我慢して」
 封隼は姉を支えて、懸命に城の奥を目指した。

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