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 Mr.PEACEはしばらくミオの遺体に何かを話しかけていたが、ふ
いにその視線が、本棚の近くに転がっていた短剣にとまった。
 彼は素早い仕草でその短剣を取ると、絵麻につかみかかった。
 翔の腕に回されていた手を引き剥がし、本棚に叩きつける。
「痛っ……」
 ひどい音がして、衝撃に絵麻は表情を歪めた。本が数冊、本棚から床に
飛び出す。
「絵麻!」
「解放の時が来たんだ! 私はミオを甦らせる!」
「Mr!」
「ミオ……もうすぐだよ。もうすぐ君を甦らせてあげられる。呪いも消え
るよ? そうしたら子供達と5人で、静かに暮らそう。誰にも邪魔させな
い……!」
「……!」
 狂気の瞳の奥にある、切実な願い。
 誰もが願っていることなのだろう。平和に暮らすことは、この世界の誰
もが願ってやまないことなのだろう。
 けれど、そのために大切な人を殺されることを受け入れる人はいるのだ
ろうか。
「絵麻っ!」
 短剣を振り上げたMr.PEACEと絵麻の間に、翔が割って入る。彼
は必死に絵麻を逃がそうとした。
「リリィ、絵麻連れて逃げて!」
「翔……」
「絵麻、早く!」
 絵麻の手をつかんで、リリィが執務室から逃げ出そうとする。
 その行く手を、銀髪の青年がふさいだ。
 いつもきちんと調えられている銀髪は乱れ、肩で呼吸していた。アイス
ブルーの瞳に、刺す様な冷たい光がある。
「ユーリ……!」
「何をやっているんですか」
 彼もまた、口調が冷めていた。その手には細身のナイフが握られている。
「ユーリ、絵麻を殺せ!」
 Mr.PEACEが命じる。
「絵麻を……ですか?」
「解放の時だ! お前だって、解放を願っていただろう? 呪いが解けれ
ばミオが戻ってくる! イオは用済みだ!!」
「イオは……用済み?」
 その言葉に、ユーリのアイスブルーの瞳が揺れた。
 ユーリは乱暴に、絵麻とリリィを引き離した。バランスを崩した絵麻
は、ユーリの腕の中に倒れこんだ。
「……絵麻っ!」
 リリィが、リョウが悲鳴をあげる。
 ナイフを振りかぶったユーリの姿に、絵麻はきつく目を閉じた。
「絵麻あっ!!」
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