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 そんなこんなで、年少者が異常な盛り上がりを見せた夜、夜勤から帰っ
て来た信也は、リビングで何かの図面を広げる幼馴染と、彼女と一緒にい
る翔とを見つけた。
「ただいま」
「お帰り。リョウ、借りてるよ」
 覗き込んで見ると、様々な人体のパーツがいっぱいに描かれていた。
「何? ロボットの設計図?」
「やだ、違うわよ」
 自分の隣の席を片付けながらリョウが言う。信也はそこに滑りこむと、
テーブルにあった缶を開けて中のクッキーを口に放り込んだ。
「義体技術の資料だよ」
「ギタイ……周りに合わせて色変える奴?」
「いや、それは擬態」
「義体っていうのは、義手とか義足とか義眼とかのこと」
 リョウが説明する。
「ああ」
「現場の最新の現状が欲しくて、リョウに頼んで資料を手に入れてもらっ
た」
 ガイアで義体を作るのは、医者の仕事の一部だ。専門家もいるのだが、
やはり精巧な物になれば高くなるのはどこの世でも変わらぬ常だった。
「で、それをどうするんだ?」
「パワーストーンを使って、本物の手足のように自分で動かせる義体を作っ
てみたいんだ。シエルやフォルテが使えるような」
「いいじゃん、それ」
 現状の義体は人間と同じ動きはできない。欠けた部分を補うだけだ。
 手足が自由に動けば、目が見えるようになれば……それは不自由を感じ
る誰もが願うこと。
「僕は今までずっと壊して来たから。今度は、作りたくて」
 どこか寂しげな翔の横顔に、信也は今朝のことを思い出した。
「そういえば、絵麻とケンカしたのか?」
「……別に」
 翔がふいっと顔をそらす。
 その頬が赤く染まっているのに気づいて、信也はリョウと目を合わせる
と、翔に聞こえないように笑った。
「あの子、目を離すとすぐどっか行っちゃうわよ?」
「いい子は早く売れるっていうしな」
「……」
 翔は応えなかった。
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