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「誰がっ!」
「照れない照れない」
「ついに色気づいたかー?」
 冷やかされて、絵麻はますます赤くなった。
 この前倒れた時、翔に強く抱きしめられたことを思い出していた。
 他の人に抱きしめられた時は恐怖と嫌悪で体が震えた。けれど、翔の時
はそうじゃなかった。逆らう気持ちすら起こらなかった。
 思い出すと鼓動が早くなる。あの時おとなしくできていたのが不思議だっ
た。
 自分の気持ちが、少しわかりはじめてる。
 翔の事が好きだ。
 そして、もしかしたら翔も自分を……なんて思ってる。どうでもいい相
手を抱きしめるなんてしないだろうと勝手に思っている。
 絵麻は恋愛をしたことがない。祖母に育てられたこともあって、恋愛を
する相手は結婚相手と同一だと思っていたし、姉妹で育ったため、男の子
に縁がなかった。
 それに、男の子は苦手だった。
 みんな姉のファンだったし、クラスメイトたちが自分を通して姉を見て
いるのは知っていた。中学の頃、少しいいなと思っていたクラスメイトが
家に来たいと言ったので呼んだ事があるが、彼は姉の住む場所を見たいだ
けだった。絵麻には何の興味もなかったのだ。
 そんな苦い経験をしている絵麻だったが、翔は違う気がした。
 彼が自分より年上だからなのだろうか?
「絵麻、ずっと顔赤いけど……熱でもあるの?」
「え?」
「熱はないだろう。にやにやしてたし?」
 素直な性格が災いし、今までの葛藤が全部顔に出ていたらしい。
「タマゴ焼けたから、翔に出してあげて!」
 絵麻は慌しく皿を置くと、台所を飛び出した。
 が、お約束とでもいうのか。入り口で翔と正面衝突してしまう。
「きゃあっ!」
「わわ……って絵麻」
 翔の深い色の瞳を見た瞬間、かっと頬が熱くなった。
「……どうしたの」
 翔がふいっと目をそらす。その頬が、僅かに桜色に染まっている。
「な、何でもない……タマゴ、お皿に乗ってるから」
 絵麻はぎこちなく言う。
「ありがと……」
 翔もどこかぎこちない。
 絵麻は後ろを見ずに、ぱたぱたと自分の部屋まで駆けて行った。
 だから、ラジオが流していたニュースは聞かなかった。
「続いてのニュースです。国府シンクタンクが開発したエノラG型爆弾
『ベナトナシュ』が投下されてから本日で14年が経ちました」
 翔のベーコンエッグを食べる手が、ぴたりと止まる。
「『ベナトナシュ』は「武装集団だけを殺せる」と言う謳い文句で北部リ
トラボに投下されましたが、結果として、民間人30万人が犠牲になりまし
た。ベナトナシュの開発者は全員が国府より処刑されましたが、この日を
受け、国府シンクタンクでは謝罪文を発表すると共に……」
 翔は表情を固くすると、乱暴にフォークを置いて、ラジオのスイッチを
切った。
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