トリプル・ループ
トリプル・ループ
アラジンの魔法のランプ、というおとぎ話がある。
金でできた魔法のランプをこすると、逞しい体格にチョッキ、頭にターバンを巻いた、テンプレートな『魔神』が出てきて「ご主人様の願いを何でも叶えて差し上げましょう」となるあれだ。
英治、敏、椎那は東高の仲良し三人組である。昼ご飯も放課後ゲーセンに遊びに行く時も、罰則も、赤点も、補修も三人一緒。別のクラスなのに。
本人達は自称「南中のズッコケ三人組」だが、クラスメイトも教師も彼らを「三バカトリオ」と呼んでいる。
その夏も、例によって仲良く遅刻した三人組は体育倉庫の掃除を言いつけられ、ぶうぶう文句を言いながら冷房のない灼熱地獄の倉庫を片づけていた。日が傾く頃、掃除がおおかた終わろうとした頃に事件が起こった。
英治が「さっき魔法のランプっぽいものを見た」と言い出したのである。
敏は即座にバカにしたのだが、椎那が「本物だったらスゴくない?」と英治の肩を持ったため、倉庫は再びひっくりかえされた。
その結果が――これだ。
ごくりと、誰かが唾を飲む音がした。
「我《ワレ》を呼び出したのは誰ぞ?」
古びたランプの細い口から、タバコの煙そっくりにたなびいて、立派な口ひげのランプの精霊は言う。
「おい、何を願う?」
ランプの精霊を呼びだした者は、どんな願いでも叶えてもらえる――ただし、三つまで。おとぎ話のお約束だ。
「せっかくどんな願いも叶うんだ。戦争撲滅とか、有意義なことにしようぜ!」
黒縁めがねの英司が拳を握って力説する。
何でも叶えてくれる。だったら、すぐには叶わないけれどどうしても必要な願いを叶えよう。そうされるためにランプが今ここで見つかったんだ。英治はそう主張した。
とたんに、敏が反対した。
「冗談。ランプを見つけたのは俺たちだぜ? 俺たちの好きな願いを叶えていいはずだ」
世界を平和にしたところで、誰が俺たちの赤点を助けてくれるんだ? 敏の主張はこうだった。
「世界平和だろ!」
「いーや。俺たちの進級を何とかするほうが先!」
口論を始めた友人二人を見ながら椎那が口を開く。
「願いは三つ叶うんだろう?」
考え考え、椎那は言った。
「だったら、一つ目と二つ目は願いを叶えて、三つ目で願いをまた三つ叶えてって言えばいいじゃないか」
どう? と問いかけた椎那の言葉に、二人の顔が輝く。
「それいいね!」
「でも誰が願いを巻き戻すんだ? オレはヤだ」
「僕だって!」
「順番にやればいいじゃないか」
「どういう順番で?!」
風通しの悪い灼熱の体育倉庫の中、三人の激論はループしながら加速する。
律儀に揺れていたランプの精霊は、ぽつりと呟いた。
「願いを叶える、とはこれっぱかしも言ってないのだが……」
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