夢を聴かせて
夢を聴かせて
いつの事だったか、仲間内で夢の話になったことがある。
意外なことに、シエルと哉人の夢が「平凡な家庭を持ちたい」で同じだった。アテネはお兄ちゃんとずっと一緒にいるんだと拳を握っていた。信也はリョウの実家を医院として再興させたいそうだ。もっとも、リョウ本人の希望は別のところにあるようだが。翔は死ぬまでにパワーストーンの同調の分野を完成させるとひとりだけ壮大なプランを立ち上げ、絵麻がその隣で笑っていた。絵麻はパティシエかガーデニングという、リリィたちにはわからない職業につくことを思い描いていたようなのだが、今ではそんなご大層な肩書きがなくても、料理を続けられたらと思っているそうだ。
リリィ自身の夢は、シエルたちと同じで家庭を持つことだった。愛する人と子供たちとに囲まれて、平凡に幸せに暮らしたい。愛する人が誰なのかわからないところまでシエルたちと同じだったリリィの夢は、翔から「17歳症候群」と命名された。唯美はいつか封隼とふたりで、故郷に旅行してみたいのだという。そこで今まで黙っていた封隼に話の矛先が向いた。
仲間がそれぞれの言葉で夢を語る中で、封隼はなぜか不思議そうな顔をしていた。
「封隼の夢って何?」
「……ユメ、って?」
根気よく聞き出していくと、封隼には夢という概念がなかった。
「かなえられるかどうかはわからないが、将来実現させたいと思っている事柄」
翔に辞書そのままのような説明をされ、封隼はしばらく考えていたのだが、やがて首を振った。
「もう終わった」
姉さんに会えたからと、封隼はそう言った。
「……夢はひとつ叶っても終わりにしなくていいんだよ?」
「そうなのか?」
「アンタってばホントものしらずねー」
唯美がそう言って笑う。つられたように笑いが広がるが、リリィはあまり笑いたいと思わなかった。裏を返せば封隼がそれだけ酷い状況にいたということなのだから。夢を見ることすら与えられなかっただなんて、酷すぎるではないか。
「今、ないの? なにか、こうなって欲しいなってこと」
「……夕飯に、じゃがいもが食べたい」
また笑いが広がる。こうして結局、封隼の夢はわからずじまいになった。
「ねえ、今でも封隼は、夢ってないの?」
その頃のことを思い出して、リリィは隣に座っていた封隼に聞いてみた。
どうやらうつらうつらしていたらしい封隼はリリィの言葉に目を擦ると、今は見てなかったと言った。
「そっちじゃないよ。実現させたい方の夢」
「……リリィは?」
思いがけず聞き返され、リリィは僅かに頬を染めた。
自分の夢。大切に心の奥にしまった、叶えたい夢がある。
「前と、同じだよ」
違うのは、今では愛する人が誰なのか、きちんとわかっていることだろう。
子供の笑う声がする暖かな家庭で、リリィの隣にいてくれるのは――。
「封隼は? 今でも、夢はないの?」
「……今は、あるよ」
封隼の声が、聞き取れないほど低くなる。
「聴かせて?」
同じように声を低めたリリィに、封隼は僅かに微笑んでみせた。
「17歳症候群、だよ」
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