しばらくしてから意識が戻った絵麻は、計画が今夜実行であると聞いた。 覆せない決定事項だと聞いた。 「……わかった」 こくりと素直に頷いた絵麻に、それを伝えた信也とリョウは驚いていた。 絵麻はもう一暴れすると思っていたのだろう。 絵麻には内に秘めていることがあった。 翔の部屋に追跡玉がある。それのリリィに対応している物を使えば、昨日 の北部に行く事が出来るだろう。 絵麻はリリィと2人で話がしたかった。 どうしても信じられなかった。 リリィは外見の美しさは姉に似ていた。けれど、内面は全然違っていた。 いつでも優しくて、暖かくて。 リリィがいてくれたから安心できた。絵麻は翔とリリィにずっと支えられ てきた。 そのリリィが突然あんな行動を取るなんて考えられない。絶対に理由があ る。 人が知っていることと、本人が知っていることが必ず同じではないことを 絵麻は知っている。 どちらが事実なのかはその時次第だ。人が知っている事の方が正しい事実 であることだってある。 でも、絵麻はリリィの気持ちが聞きたかった。リリィの口から話して欲し かった。 だから、聞きに行く事にした。 誰かに話せば止められるのは明らかだったので、戻り玉だけをもってこっ そり行くことにしていた。 「ごちそうさま。わたし、疲れているから少し休むね」 絵麻はわざと食事を少しだけよそい、一番に夕食をおえて席を立った。 「ああ、お休み」 「少ししか食べてないけど、大丈夫?」 「ちょっと食欲がなくて……」 絵麻がショックを受けているのは周知の事実だったから、誰も疑わなかっ た。 「食器だけ水につけておいてね。後で洗うから」 「無理しちゃ駄目だよ」 一瞬、翔と目が合って心臓が跳ねる。 「……うん」 ボロを出さないうちにと、絵麻はさっさと台所から出た。 翔の部屋ならどこに何があるかわかっている。掃除をしているのは自分 だ。 相変わらず、翔の部屋は乾いた石の埃っぽいにおいがした。口を覆って、 くしゃみしそうになるのをこらえる。 翔の部屋の机の上にメモを残した。 そうしてから引き出しを開ける。戻り玉と一緒に、追跡玉がきちんと色別 に分類されて入っていた。 その中から戻り玉を一つと、リリィに対応した追跡玉を取った。 そうしてから、静かに床にボールを落とす。 中身の薬品が混ざり合って反応する。光に包まれる中で、絵麻は目を閉じ 一心に祈っていた。