「いやあぁっ!!」
絵麻が翔に抱えられて階段を降りていた時、階上から悲鳴が聞こえた。
女性の悲鳴。悲痛な、聞いた事のない声。
「被害者の声だ。行くよ、絵麻」
立ち止まってしまった絵麻を翔は促したが、絵麻の足は動かなかった。
聞いた事のない声。
だけど、知ってる声。
まさか……?
「翔……翔、お願い」
絵麻は翔のジャケットの胸元にすがりついた。
「え?」
「さっきのところに戻らせて!! リリィかもしれない!」
「まさか」
「お願い!!」
このままだとまた勝手に暴走してしまいそうな絵麻の勢いに、翔は彼女につ
いてさっきの場所へと向かった。
「どこだっけ?! 階段、もう1階上?」
「そう! 廊下を左!」
言われるまま曲がろうとした時、そこに人影が立った。
慌てて絵麻は止まるが、すぐ笑顔になった。
そこにいたのは、リリィだったから。
「リリィ! 大丈夫だった?! 悲鳴が聞こえたから、心配になって……」
その時絵麻は、リリィが髪をほどいていることに気づいた。
いつもの服装ではなく、胸元や白い足を露出する薄物を着ていることも。
「リリィ? その格好、どうしたの……?」
戸惑う絵麻の喉元に。リリィが氷の刃を突き付ける。
「!」
「ごめんなさいね、絵麻」
その声が目の前の人物から発せられたことが、絵麻はしばらくわからなかっ
た。
クリスタルハープを鳴らすような澄んだ声なのに、悪意に満ち、凍てついて
いたから。
「リリィ、声が……」
リリィは笑った。
彼女に似つかわしくない、歪んだ笑顔だった。
そして、絵麻との距離を一歩詰めた。
「私、貴女のことが、ずっとずっとうざったかったの」
絵麻の柔らかい喉に刃の切っ先が刺さり、細く赤く、血が流れ出す。
絵麻は言葉を失ってその場に立ち尽くした。